郷に入ったら郷に従う。余計なトラブルを避けるためには有効な知恵なのだが、、、。photo by Kim Seng
中国人観光客の振る舞い、大胆なり。
私はお金持ちじゃないのでいつも格安航空券でタイに飛ぶ。だから、きまって中国東方航空っていう航空会社を利用することになる。
とある便、深夜の上海初、バンコク行きの機内は座席にずいぶんと余裕が残っていた。私は後ろの方に座っていたのだが、そのまた後ろにはいくつか空席が残っていた。
私は少々緊張していた。それは、私以外のほとんどの乗客が中国人だったからだ。おそらく彼らはバンコク観光に向かう中国人団体客だったと思う。
調度その時分、上海で反日の気運が高まり、日系企業や日本車が暴徒の襲撃を受けていたりしていたからなおさらだった。
もちろん、そういった一部の暴徒と一般の中国人たちをひとくくりにするべきではないのだが、それでも中国人だらけの機内でぽつんと一人ぼっちの私の警戒心はいつもよりも高く保たれていた。
機内で中国人の乗客にいちゃもんを付けられ、最終的に袋叩きにされた、なんてことはもちろん起こらなかったのだが、、、。
それよりも、近頃世界中から非難轟々の中国人観光客のマナーの話だ。
離陸して機体が安定すると、私にとっては驚くべき出来事が起こった。前の方に座っていた中国人達が後ろの空席にがやがやと押し寄せてきて、ごろんごろんと2人分の座席を1人ずつ陣取って横になり、ぐーすかと鼻息を立てて眠り始めたのである。
ふだん飛行機自体をあまり使わない私だが、そのような光景を目の当たりにしたのは初めてだったので少々驚いた。こういうことって普通なのだろうか?
自分の感覚からすると、座席が空いているからと言って我がもの顔で空席を占拠するというのはいかにも大胆な行動に見えて仕方がなかったのだ。その様はまるで「ここも俺んちだ」と言わんばかりであった。どこか、尖閣諸島の問題とも関連する気質、といったら言い過ぎだろうか。
自分の「シマ」が脅かされたわけでもない私は、そんな光景が別段不快でもなんでもなかったし、ただただ「大胆だな、さすが中国人」と横目に驚いていただけで、まあ、空いているのだから別にいいのかな、と自分をすぐに納得させ、バンコク到着までしばしの眠りについた。
しかし、今になってよくよく考えてみれば、中国人観光客の公の場でのこの手の大胆さや、無遠慮な態度が極端に行きすぎた所に、各地で巻き起る中国人観光客のマナー批判の根本原因があるのではないかと思えてならない。
機内の空席にごろ寝するくらいなら大した問題じゃないが、そういった行動はいまになって思えば、各地で繰り広げられている非難轟々の中国人による「大胆ストーリー」のほんの「序幕」のようなものだったのだと、妙に腑に落ちる物がある。
タイ人の頭痛の種?
チェンマイ大学社会学研究所がチェンマイ市民を対象に行った調査によると、市民の多くが中国人観光客に嫌悪感を抱いているということが明らかになったらしい。その主な原因となっているのは、「大声で話す、並ばない、痰を吐く」などをはじめ観光地での傍若無人な振る舞いなどが上げられる。
最近、タイ北部の世界遺産、スコータイ歴史公園でも、中国人観光客への監視を強化する動きがあったとか。彼らの振る舞いには目に余るものがあり、ずっと頭痛の種だったとのこと。残念ながらこれからもしばらくの間は頭がガンガンし続けることだろう。機会があれば頭痛薬の売れ行きの方も調べてみたい。
たとえば、大胆にも仏像に登ってみたり、撮影禁止のエリアでパシャパシャとやってみたり、あちらこちらにゴミを巻き散らしたりと、お馴染みの所業はタイにおいても貫徹されている様で、ここまでくると頼もしくさえある。
昨年末には、バンコクのワットプラケオにて、エメラルドブッタ前に設置されていた保護柵を中国人観光客がなぎ倒したとかなんとかいう話もあった。そばにいたタイ人によってツイッターに載せられた証拠写真が物議をかもしたということで、タイ人の怒りはさぞメラメラと燃え上がっていることだろう。ムエタイの怪しい縦笛の音色がそこかしこから聞こえてきそうだ。
色々と調べていくと出てくるは出てくるは、彼らの所業が一冊の本にまとめられシリーズ化されるのも時間の問題だろう。「中国人、極悪マナー列伝」と銘打っては偉人たちの逸話をまとめて英語訳にもすれば世界的なベストセラーになるかもしれない。
まあ、この辺で悪ふざけはやめておこう。個人的には中国人の方になにかされたわけではないから、反「中国人観光客」ってわけではありません。それに、マナーが悪いのはきっと一部の観光客に過ぎないでしょう。
実際にチェンマイ辺りで中国人の旅行者との有意義な交流もあったし、中国と言ったってかなり巨大な国だから、もちろんひとくくりにはできない。これはどこの国でも民族でも同じこと。理想は「個人」として目の前の人物を見て判断することだと思う。
郷に従わなければ、トラブルは必至
あまり偉そうなことは言いたくないけれど「郷に入ったら郷に従え」という考え方は、アウェイで余計なトラブルを回避するための賢い知恵なのだと思う。異論を持ったり自分のやり方が正しいと考えるのは各々の勝手だが、それを押し付けたり貫き通すことは対立につながりやすく反発としてはねかえってくるというリスクは常に忘れないでおきたい。
彼らの国内での振る舞いがそのまま外国に持ち込まれているのであれば、しばらくはいたしかたない気がしないでもない。私はまだ小さかったのでよく分からないのだが、過去の日本人観光客による恥ずかしい所業の歴史も同時にふり返り語られるべきだろうし、タイ人に横柄な態度を取る欧米人の姿も珍しくなく、近頃では日本人のマナーが劣化しつつあるという風の噂も聞こえてくる。
これはともすると、自分も含めて「人のふり見て」なんたらかんたらするよい機会なのかもしれない。
ところが、ついに下の様なCMが中国国内で放映されているという事実を目の当たりにすると、やはり彼らの所業は我々や他の観光客には到底かなわないレベルにまで達していることを認めざるを得ない。
悪評だらけの中国人観光客を少しでもフォローして見ようかと試みた自分の浅はかな考えは、以下のパンダさんたちにより木端微塵にされるのであった。
制作はシドニー?であろうか。中国国内で流れているという「中国人の海外でのマナー向上」を啓発するCM。
一部の人達の所業によって、その他大勢の良識ある中国人観光客が非常に迷惑しているのかもしれない。それとも、個人主義の国の人々にはそういった発想も薄いのかな。
日本でも中国人観光客にサービスする人たちは苦労しているって言うし、日本国内でのバラエティーに富んだ所業もネット上に色々と報告されている。中国人観光客が訪れる国内各地の頭痛薬の売れ行き調査もそろそろ始めなければなるまい。
悪評の飛び火を危惧
俺の顔は薄味だから、外国へ行くとよく韓国人や中国人と間違われる。タイにいる間も、韓国、中国、シンガポール、台湾、マレーシア、香港などなど、東アジアを中心に幅広く間違われた。なぜ「中国」と来ないでピンポイントで「香港」と来たのかは悩み所だが、このように俺の顔は東アジアならどこでもイケるというある意味で非常に柔軟性に富んだ作りに仕上がっている。
思春期の頃はいわゆる「濃い顔」にとてもとても憧れたものだ。
タイの場末の床屋で五分刈りのような頭になると、これにさらに拍車がかかり、ますます日本人の風貌から遠ざかって行くようだ。
タイのチェンライの街角でアイスを頬張っていると、地元の少女たちがタイ語で道を尋ねてきた。「ポン、イープン、クラップ(私日本人です)」と口を開くと、少し驚いたようにはにかんですぐに行ってしまった。
このように、現地でタイ人に間違われたことも何度もあった。名倉さんのような面立ちだらまだしも、薄顔の俺にもそのような災難が降りかかってくるというのはなかなか新鮮な発見であった。
チェンライのゲストハウスのお兄さんにこの話をすると「北部は割に顔が薄い人が多いからさ」とのことだが、タイ人の顔立ちも地域によってばらばらのようだ。タイ人の多くがシャム族といったっけ?中華系やクメール系やらマレー系、北部の少数民族やらと、他民族国家だから「薄味」のタイ人もちょくちょくいるわけですね。
頭から「日本人ですね」と言い当てられることももちろんあり、そんな時はむしろなぜそう思ったのか尋き返すのだが「ファッション、オシャレ」と言われたりすると、これは嬉しいものがある。確かに、日、中、韓でもっとも小奇麗な恰好をしているのは日本人かもしれない。
「パンダ」に間違われがちな私
さて、だいぶ話はずれた感があるけど、あまり海外で中国人の評判が悪くなると、中国人と見間違われることが多い俺にも被害が飛び火しやしないかと、半分は冗談で、しかしもう半分はシリアスにそんな危うい未来を心配している和製パンダである。
俺がタイにいる時には、チェンマイで色々と中国人観光客がやらかしてくれたみたいで、ニュースやらなにやら取り上げられて地元のタイ人の反中国人観光客の気運が高まり、そのころ自分はイサーンにいてそろそろチェンマイへ向かう旅程だったのだが、和製パンダの俺はちょっと行き辛かったというのも実際のところ。
結局、行ってみたらどうってことなかったわけで、「気運」といったっていったいどの程度のものか、たいしたことない。ところが、タイでは今でも中国人観光客へのクレームが日々ニュースになっているようで、このままこんな状況が続けば、タイ人の方も中国人ってだけで敵視、攻撃したりなんかし出して、そうなると、パンダ似の俺なんかは余計に動きづらくなるのではないかとやや心配な部分もある。
人の怨念、憎悪というものを侮るなかれ、海外で「パンダさん」と言うことで冷たくあしらわれる程度ならまだいいが、どろどろと蓄積されたものが爆発した場合、運悪くその標的になりとばっちりを受けるかもしれない無関係なパンダ似の私には、もはや呑気に股をひらいて笹を食べている場合ではないのである。
パンダさんたちの悪評が広まれば広まるほど、タイに限らず海外を歩くパンダ似の面立ちの人間にも被害が及びかねないと言うこともぜひ本家のパンダさんたちには知っておいていもらいたいものだ。
むろん、そこまでの思慮に及ぶくらいなら、鼻っから各地でこんな反感は買っていないだろうけれど。
どうせなら私も品のいいパンダに見られるように精進して行きたいと思う。象が怒ったら手がつけられない。鼻に巻かれ、踏みつぶされるなんて御免だ。photo by Jason Pier in DC