ご存じの方も多いと思う、レインボーフラッグ。LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)の尊厳と彼らの社会運動を象徴する旗である。豊かな色彩は多様性を意味する。
タイ人にはゲイが多いという印象を持った
「タイ人にはゲイが多い」。これがタイを2カ月以上旅した結果私が抱いた印象である。だから何だというつもりはない。ただ、旅の間訪れた各諸で目にすることが多く、話すことも、親切を受けたこともままあった。
ちなみに私はゲイじゃない。彼らの生態に特別な興味もないし、偏見もない。ただ、私にとってもはや無縁とは言い難いタイ王国の「ゲイ事情」について書かないわけにはいかない。せっかくだから自分なりにまとめてみたいと思う。
ちなみに「ゲイ」とは本来「同性愛者」の意味だからレズビアン等も含むはずだが、私がタイで接触する機会が多かったのは男の方だったという理由から、今回は主に「男性同性愛者」を指すことにして話を進めさせて頂きたい。
タイはゲイやセクシャルマイノリティーに理解のある国
タイはいくつかの法的課題を残しながらもLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)に対して比較的理解のある国だと言われている。
とくにアジア地域、とりわけ東南アジア諸国の中では最も彼らにオープンな国だと言われている。実際に「タイ人にはゲイが多い」という印象を持つ各国の旅行者は多く、2度のタイの冒険歴を持つ私もその中の一人だ。
ちなみに私の海外経験はタイ、台湾、カナダと3加国だけであり、母国日本も含めた4カ国における個人的体験に基づく比較となる。
タイではゲイの方々が社会によく溶け込み、マジョリティーと身近な距離で暮らしている印象を受ける。こういった印象を抱くのは私だけではないはずだ。
その背景には「同性愛をさほどタブー視しないと言われる仏教思想や、タイ人の寛容な気質といったものが横たわっている」という見方が一般的だ。
もちろん、未だに残る差別や偏見の中で苦悶する人々への想像力も維持すべきだが、それでも「マイペンライ(気にしない、大丈夫)」に象徴されるタイ人のおおらかな性質に救われている方々はとても多いのではないだろうか。
ゲイフレンドリーランキング
ドイツには国際的なゲイ専門旅行ガイド「スパルタカス・インターナショナル・ゲイガイド」がある。このガイドが2013年3月4日、世界138の国と地域を対象に「ゲイフレンドリーな国」をランキング化した「ゲイ・トラベル指数」なるものを発表した。
これはゲイやレズビアンなどの同性愛者にとって旅行しやすい国を調査したものであり、評価基準は14項目で、総合スコアが高いほど「旅行しやすい国」と言うことになる。
14項目の評価基準の中には、たとえば「差別を禁止する法律の有無」「宗教上の影響」「国民の非友好的感情」などがある。
1位はスウェーデン、そして上位は同性婚が認められているヨーロッパ勢が占めている。アジア勢ではやっと29位にイスラエルがランクインし、そのあとにタイ、カンボジアがアメリカなどと並んで続く。ちなみに我が日本はというと、更にずっと下の60位に入っている。
このランキングに基づいて考えれば、他のアジア諸国や日本からタイを見ると確かにゲイフレンドリーな国に映ったとしても、アメリカから見たらどうってことはなく、ヨーロッパの上位国から見たらむしろ少々「ゲイ・アンフレンドリー」な国に見えたとても不思議は無い。
私はネットの情報などからてっきり「タイは世界で稀に見るゲイフレンドリーでオープンな国」なのかと思いかけていた。しかしこのランキングの基準に沿えば世界で一位、二位を争うほどではないようである。まだまだ世界との差は大きいらしい。
しかし、タイを訪れたゲイの方々の抱く「実感」としては世界でも稀に見る居心地の良さがあるのかもしれない。私はヨーロッパの方へは行ったことが無いので、そのあたりは比較しかねる。
都市ごとの違い
タイでも地域ごとに多少の温度差はあるようだ。2009年、タイ北部の都市チェンマイでゲイパレードが行われた際に、赤シャツなどを着た30人ほどの団体が押しかけパレードを中止に追い込んむという出来事があった。彼らにはゲイパレードが「文化と伝統の都市チェンマイのイメージを傷つける」という主張があった。首都バンコクの方がゲイの方にとって羽を伸ばしやすい環境のようだ。
前述のランキングでタイと並ぶアメリカも州ごとに同性愛者への理解度が違う。2011年6月にはニューヨーク州で同性愛婚が合法化されたが、まだまだ国全体としては課題が残る。
東南アジアの国で唯一タイと並ぶカンボジア。同じ仏教国である。しかし同性愛者への理解度はタイほどのレベルにはないようだ。
イスラエルはタイを抜いてアジアで最もゲイフレンドリーな国という順位。首都テルアビブにはいわゆる「ゲイエリア」が存在しないほど町全体のセクシャルマイノリティーへの理解度が高い。これはゲイツーリズムを定着させようという行政の取り組が功を奏した結果のようだ。イスラエルは中東で初めて同性愛者の人権を保障した国であり、同性愛を禁ずるユダヤ教とは反対にゲイに開かれた都市であるのはとても面白い。
しかし、同性愛者への不理解はゼロではなく、大小様々な軋轢も生まれている。エルサレムのゲイパレードはテルアビブのものとは違い「ゲイパレードが警察に護衛されながら聖地エルサレムを行進してゆく」ような緊迫感もある。
バンコクのゲイパレード。残念ながら現在バンコクでゲイパレードは行われていないようだ。photo by Charles Roffey
・ソンクランフェスティバル(水かけ祭り)中のゲイの方々の小規模なパレード(バンコク)
・タイ最大級と言われるプーケットのゲイパレード
ゲイの方々の職業
タイの旅をしている間に接触したゲイの方々はじつに様々な職業に付いていた。以下は自分が実際に見た職業である。
- レストランのウェイター
- コンビニ店員
- 通訳
- ゲストハウスのオーナー、スタッフ
- ムエタイトレーナー
- マッサージ師
- 男娼
- バー店員
- 飲食店経営者
- 米農家
ゲイであることが職業選択を狭めているという印象はあまり受けなかった。むろん、そういった側面もあるのかもしれないが。
タイのゲイストリートとゴーゴーボーイ
私はまだ訪れたことはないが、タイにもゲイ専用のクラブが集まるエリアがいくつか存在する。例えばバンコクのシーロム周辺にはそういったエリアが3つほどある。パタヤの売春街「ウォーキングストリート」の一角にもそういった通りがあるようで、同じく魅惑のスポットになっているらしい。パタヤにもまだ行ったことがないので次回はぜひ足を運んでみたい。
こうした場所にあるクラブには鍛え上げられた美しい肉体を露出し、踊ったりパフォーマンスをするセクシーなお兄さん方が働いている。彼らは「ゴーゴーボーイ」と呼ばれている。これが「世界的な呼び名」なのか、それともタイ独特の呼び方なのか定かでない。タイではお馴染みのゴーゴーバーで働くゴーゴーガールの男版だと考えて差支えないだろう。
すると「タイのゴーゴーボーイもゴーゴーガール同様の問題を抱えているかもしれない」ことに気がつく。つまり貧困である。
多くのゴーゴーガールたちは田舎の貧しい家庭の出身であり、売春で稼いだお金を仕送りしている娘も多いと聞く。これは、タイの「女性が両親を支える」という伝統ともリンクしている。
だが、これはゴーゴーボーイたちにも当てはまりそうだし、「すき好んで」と同じくらい、経済的な事情から売春の世界へ跳び込んだゲイや男性も多いのではないだろうか。
タイでは貧困などを背景とした性産業の発展が際だち、問題視されている。そして、女性だけではなく男性もその「買われる側」にいる。そして「安くて魅力的な」男たちを買いに来る世界各国の人々がタイに集う。このあたりの構図も女性の売春とよく似ている。
最近では若い男を買いに来る日本人女性の姿もちらほらしているという報告もネット上で見かける。
物価が安く温かいタイ。男たちがタイの売春街に引き寄せられるように、日本でパートナーに恵まれない寂しい女性達が、魅力的なタイ人男性を買いに訪れたとしてもなんら不思議ではない。
今度タイを訪れる際はぜひ足を運んでみたい。バンコクのゲイストリート。photo by smalljude
本当にタイ人にはゲイが多いのか?
タイがセクシャルマイノリティーに理解のある国であることは間違いない。そして、ただでさえ人気の観光立国のタイがゲイフレンドリーならば、タイを訪れる世界各国のゲイの方々も多いと考えるのが普通だ。だから、私のような旅行者が滞在中に彼らにお目にかかる機会も必然的に多くなる。
では、ネットでよく見かける「タイ人にはゲイが多い」という説は本当だろうか。
結論から言えば、きちんとした統計が見当たらないのでこれは印象の域を出ない。そして情報の多くも統計に基づいたものではない。
しかし、こういった「印象」を抱いた日本や欧米の旅行者たちが多いのは事実であり、英語で語られた体験談も多い。みな自国や訪れた他の国々と比較してそう感じたのだろう。
明確な「数」までは知りえないが、タイではゲイを身近に目にするし、環境から考えても「隠れざるを得ないゲイ」の数は少ないと思っていいだろう。
ゲイになりやすいタイ独特の環境?
「タイ人はゲイになりやす」という説もある。タイには後天的にゲイになりやすい環境があると言うのである。その背景にはタイ独特の環境的要因があるという考える方が多い。その主たる「環境的要因」を集めてみた。
- タイの家庭では父親よりも母親の方が強く、母親の背中を見て育つ子が多いため、女性への憧れが増す。だから男も女も、女性に憧れを持ちやすくなり、その結果、ゲイやレディーボーイになりやすい。
- 浮気性の男が多く、シングルマザーに育てられる子が多いため、男性コンプレックスが生まれやすく、男なのに男を好きになってしまう。
- お金のためにゲイやレディーボーイになる。または「振り」をして稼いでいるうちに、本当になってしまう。
「本当になってしまう」というのは私の憶測です。いずれにせよここ上げたのは一般の人々の意見であり、どのような根拠があるのかは定かではない。私も専門家じゃないのでよく分からない。むろん、専門家ですら完全に分かるものでもなさそうだが。
タイでの「ゲイ体験」
まず、前提として私はゲイにそこそこもてるらしい。これは、別段嬉しくもなく、悲しくもない。しかし、時に不愉快なこともある。
熱い視線を送ってくるのは勝手だが、タッチしてくる輩は礼儀を欠いていると思う。そういう場所に居るのならまだしも、ムエタイスタジアムでゲイに膝を触られると憤りを感じずにはいられない。私はムエタイを観戦しに来ているのだ。
女性なら男の顔をひっぱたけばいいが、私がゲイを殴った所で、逆に力ずくで犯されそうで怖い。穏便にフェードアウトするスキルが求められる(笑)。とまあ、私がこれまで出会ったタイ人のゲイの方々多くは非常に親切であったことは付け加えておきたい。
タイ、チェンマイのムエタイスタジアム。ゲイのトレーナーとカエル料理を食べに行く。
バンコクのルンピニのセブンイレブンで太った欧米男性に夕食に誘われたことがある。怪しいのでもちろん断ったが、彼はゲイで私もそうだと勘違いしていたに違いない。更に私がとてもタイに馴染んでいたためか、タイ人と間違われてすらいた。ちなみに私の顔は薄い。私が日本人だと知ると痛く驚いていた。(安く買える)とでも思ったのだろうか、いやはや、じつに暗澹たる気分である。
後で調べてみると、その向かいの「マレーシアホテル」はいっときゲイたちの溜まり場になっていたということを知った。各国のゲイの方々が宿泊していたという。おそらく今でもその名残は残っているのだろう。
周辺をぶらついていると一人のタイ人青年に声をかけられた。彼は東北のスリン県からやってきたゲイの青年だった。タイの貧困とゲイの関係を少しだけ垣間見た思いがした。
まとめ
タイのゲイ事情について自身の体験を踏まえつつ私なりにまとめてみた。ネットで得られる情報などを幅広く眺めて公正さを追求したつもりだが、おそらく「思いこみ」の域を出ない部分もあろうことと思う。
調べ始めるとますます興味が湧いてくるもので、タイを旅していた間に出会ったゲイの方たちにもっといろいろなことを聞いておくべきだったと、今になって少し悔やまれる。
特に、バンコクのゲイストリートには行っておけばよかった。おっかなさもあるが、リアルな実態を体感すれば新しい発見があるはずだ。
男性同性愛者間の予防無しの性交渉におけるHIV感染率はとても高いのだそうです。
HIV感染は今や不治の病ではなく慢性的な感染症と呼ばれており、早期発見と適切な治療により感染後も非感染者とほぼ同じような暮らしを送ることができるようになってきているのだそうです。
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