photo by Ton Rulkens
「タイにはHIV感染者やAIDS患者が多い」。
そんなイメージを持っている方は少なくないと思う。
この記事に辿り着いたあなたは、これからタイへ遊びに行くか、タイから帰って来たばかりの方が多いと思う。
「タイで夜遊びしたいけど、エイズや病気ってどうなの?」
「夜遊びして来たけど、大丈夫だろうか、、、」
多少なりともそんな不安に苛まれているはず。
九十年代の爆発的なHIV感染の拡大により、エイズで国が亡びるのではと危惧されるほどの国家的危機を切り抜けたタイ。
当時と比べればHIV感染者数、エイズ患者数ともに激減、最大のピンチは切り抜けたものの、東南アジアの中で見ればいまだに一、二位を争うエイズ大国であることは変わりないのが現状だ。
他の国ではあまり見られない、男性旅行者が気をつけるべき「タイ独特の環境」から、タイのエイズ危機から現在までの経緯、HIV早期検査の重要性について書いていく。
エイズとHIVの違いや感染経路
「日本人はHIVやAIDSへの関心が薄い」といわれる。
HIVとAIDSの違いについてのきちんと理解しているだろうか?
HIVとは、
Human(ヒト)、Immunodeficiency(免疫不全)、Virus(ウイルス)の頭文字を取って命名された、いわゆる「エイズウイルス」のこと。
私たちの体に備わっている自己防衛のための免疫機能が、HIVに感染したことにより低下する。すると、どういうことが起こるかと言うと、体内に侵入してくる、普通なら何でもないはずの細菌・カビ・原虫に感染しやすくなり、悪性腫瘍もできやすくなる。
こうして発症する疾患のうち、代表的な23の指標となる疾患を発症した時点で、エイズ発症と診断される。
AIDSは日本語で言うと、「後天性免疫不全症候群」。
これは、生まれた後にかかる(後天性)、免疫の働きが低下すること(免疫不全)により生じる、いろいろな症状の集まり(症候群)という意味である。
「HIV感染=エイズ」ではない
したがって、HIV=AIDSではない。
HIVに感染した人が代表的な23の指標となる疾患を発症した時点で「エイズ発症患者」とはじめて呼ぶことが出来る。
ほとんどの場合、HIVに感染した後の数年の間は症状が現れない。
そのため、感染を知らないままに、大切なパートナーにも移してしまう可能性などもある。
感染経路
- 性行為
- 血液を介しての感染
- 母子感染
「性行為」がもっとも多い感染経路とされている。
言うまでもなく、「空気感染」などはしないし、くしゃみを浴びたり、同じお風呂に入ったりして感染する様なウイルスではない。
例えば「HIV感染者を刺した蚊に自分が刺される」といったことで感染することもないと言われる。
HIVは男性であれば血液と精液、女性であれば血液と膣分泌液、母乳(赤ちゃんがいる方)の中にしか存在していない。
つまり、HIV感染者と普通に生活することで感染することはない、と言うことになる。
photo by Ton Rulkens
タイのHIV感染者数は東南アジアで最も多い
国際連合エイズ合同計画(UNAIDS)の推計(1991~2013)によると、タイの15歳から49歳の成人人口におけるHIV感染率は1.1%であり東南アジア諸国の中で最も高い。※この数字にはAIDS発症者も含まれる。
これをタイの総人口約6400万人に当てはめて計算すると、6400万×1.1%で70万4000人の感染者及びAIDS患者がいることになり、これはタイ人の90人に1人の割合になる。
もちろん、実際のところはセックスワーカー、同性愛者、麻薬使用者たちが感染率を引き上げているので、くれぐれもタイの人々を偏見しないで欲しい。
ちなみに世界で最もHIV感染者が多い国は一位、スワジランドの27.4%。タイは世界の中では39位、49位のカンボジア(0.7%)が東南アジアで二番目にHIV感染者が多い国となる。
タイ公共保健省によると、1984年にタイで初めてHIV感染者が報告されて以来、2010年の時点でHIV感染者の数は累計100万人を突破。
その約3分の2に当たる64万人以上が既に死亡したとも言われる。
また、2012年の時点では46万4414人のHIV感染者が確認されており、そのうちの62%が男性だと言う。
もっとも感染率が高いのは男性同性愛者だが、だからってタイの夜遊びがいつも安全というわけではないのは言うまでもない。
一般女性と売春婦との境界線が曖昧
タイでは、いわゆる風俗店で働く女性や繁華街の立ちんぼさん以外にも、わりと平気で春をひさぐ女性がたくさんいる。
つまり、副業的売春婦が至る所にいる。
タイにはそうしたグレーゾーンに属する女性の数が他の国に比して多いのではないかという指摘があり、彼女らの多くは比較的裕福な外国人旅行者をターゲットに売春を行う。
市野沢 潤平著の『ゴーゴーバーの経営人類学』によれば、タイの売春婦の人口が出典によってまちまちであることが見て取れる。
厚生省(Public Health Ministry)の調査では六千人超、しかしある学者の調査では最大で100万人にも及ぶ。これは「グレーゾーン」まで含めて推し量った場合だ。
当然、こうした売春を生業にする女性たちは性感染症に感染するリスクに晒され、店に所属していなければ定期検査の義務からも幸か不幸か自由の身。
不特定多数との関わりの中で、避妊具未着用での性交渉を受け入れざるをえない事もあるだろう。
あるタイ人男性は言た。
「この国ではどこでも買春ができる」と。
クラブで遊んでいると若い女性から金銭目的の性交を持ちかけられたり、疲れを癒すために入ったマッサージ店で施術の合間になかば強引に売春を持ちかけてくるマッサージ師。
普通のカフェやレストラン、はたまた床屋でそういった商売を行う場合もあるという噂も耳にする。
タイのバービアで働く女性。
その多くが店員であり、バーに料金を支払えば連れ出し可能な売春婦である。
「バーの従業員に逆ナンされて一夜を共にした」と思ったら大間違い。
もともとバービアとは売買春が行われる場所だが、情報の少ない時代、初心で有頂天になった旅行者は単なるバーの店員と思い避妊具無しの性交に及んだ。
その結果、病気を貰うなんてことが多々あったようだ。
一説によると、一昔前、タイでHIVに感染するイギリス人がたくさんいたという。
先進国から来た外国人なら性感染症予防の知識があるはずなのに、多くの人が感染した理由はここにあった。
「一般女性だからコンドーム無しで大丈夫だろう、、、」
これが、タイ独特の「落とし穴」だった。
80年代末の爆発的なHIV感染者の増加と「ミスターコンドーム」
タイで最初の感染者はバンコクで見つかった。始まりは、アメリカ帰りの同性愛者の男性だと言われている。
その男から、はじめは同性愛者の間で感染が広まり、その後、ドラックの注射針の使い回しにより感染がさらに拡大、のちに性産業に従事する売春婦の間で爆発的に広まり、彼女たちを買うお客へとうつっていった。
90年代初頭には、タイ北部でエイズの蔓延が大きな問題となり、一時期は北タイの売春婦の4人に1人がHIVに感染しているほどだった。
1991年時点のタイにおいて、HIV感染者の割合は建設、漁業労働者と売春婦に集中していた。
彼らの多くは、農村地帯から著しい工業化を遂げるバンコクへやってきた出稼ぎ労働者。
タイのHIV感染者の爆発的案増加の要は「買売春」で、その背景には、避妊意識やHIVそのものへの正しい知識の欠如、さらに工業化によって開いて行った都市部と農村の経済的格差による都市部への出稼ぎ労働者の増加などが横たわっている。
メチャイ・ビラバイダヤ
タイには「ミスターコンドーム」と呼ばれる政治家がいる。
彼の名はメチャイ・ビラバイダヤ、タイで爆発的に増加したHIV感染を国家的危機と捉え、その撲滅ために奔走した男である。
彼は性産業を「死の産業」と呼んだ。
エイズの蔓延に対し有効な策を取ろうとしなかった政府や、買春目的でタイを訪れる欧米人や日本人を痛烈に批判した。
「色情狂どもよ!死にたかったらタイに(買春に)くるがいい!」といきり立った。
コンドームキャンペーンをはじめ、政界、教育界、メディアなどあらゆる角度からHIV感染者の撲滅のため汗を流した。
メチャイ・ビラバイダヤの働きにより、1991年から12年間に渡って、タイのHIV感染者は90%減少した。
世界銀行の推計によれば、彼は770万の命を救ったといわれており、世界的にも大変評価をされている人物である。
タイのHIV感染者はピーク時に比べると大幅に減少した。
しかしそれでも未だに毎年数千から一万人近い新規の感染者が生まれており、依然として多くの課題が残されている。
若者の性感染症予防意識は低い
2012年12月21日のバンコクポストの記事で、「ミスターコンドーム」が警鐘を鳴らしている。
「タイはいま、新たなHIV・AIDS危機である」
「タイではまだ一年で9470人もの人々が新たにHIVに感染する。そして、そのうちの
80%が“unsafe sex”つまりコンドーム不着用での性交によるものだ」と訴える。
特に、10代の若者の避妊具不着用が際だっており、彼らは他の世代よりも大きな感染リスクにさらされていると警鐘を鳴らす。
公共保健省の報告によると、2014年の15歳から24歳の若者の性感染性は10年前の約2倍と急激に伸びている。
これは、90年代のエイズ撲滅キャンペーンや啓発活動の影響下から、現代の若者が外れてしまっていて、HIV感染に関する知識や予防意識が新たな世代に上手く浸透していないことを物語っている。ちなみに、「望まない妊娠率」もこの世代が最も高い。
くわえて、タイのLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)コミュニティーやセックスワーカー、そして移民労働者における新規のHIV感染者の数は依然として増加しているのだと言う。
彼は続ける。
「今日、25万人のタイ人がHIVに感染しているはずだが、彼らは検査を受けていない」
つまり、隠れた感染者が25万人いるのではないかと、彼は強調しているのだ。
「色情狂ども、死にたければタイに買春しに来い!」といきり立ち、「タイは新たなAIDS/HIV危機に直面している」と警鐘を鳴らすメチャイ・ビラバイダヤ氏。photo by bangkok post
タトゥーによる感染
photo by haribote
タイの街にはタトゥーショップが乱立している。
一昔前は、日本でも刺青を入れる際にC型肝炎ウイルスに感染するというケースがたくさんあった。
タイでは伝統的なタトゥー(サクヤン)を入れる際に、HIV感染してしまうというケースがいくつも存在している。
これは、施術する環境が医学的に衛生とは言い難いことが原因と考えられている。
「いきなりエイズ」の増加や早期発見の重要性
ここからは、日本のHIVの現状に目を向けて行きたい。
日本では近頃、中高年者を中心に「いきなりエイズ」が増加傾向にあると言われているが、これは、HIVに感染していることに気が付かないまま数年間過ごし、ある日突然にエイズを発症しその時点で初めて自分が感染していたことを知るケースのことを言うのだそうだ。
そうしたケースが増えているというのである。
その原因はもちろん過去の性体験と、そして検査への意識の低さにある。
また、HIVウイルスが強靭化し、通常は5年から10年と言われているHIVウィルスの潜伏期間が短くなり、感染からわずか1年でエイズを発症するというケースも報告されているのが現状であり、早期発見の重要性がより一層際立って来る。
ちなみに、医学の進歩した現代、HIVはもはや「死の病」ではなく「慢性的な感染症」とまで言われており、早期に発見し適切な治療を施せば特に先進国では感染者も健常者とほぼ同等の暮らしと寿命を手に入れることが可能になってきている。
その場合、年間の治療費はけっして安くはないものの、身体障害者手帳を申請し、福祉サービス等を利用すれば支払い可能な現実的な自己負担額にまで落とし込むことができる。
そのような点からも、感染の予防はもちろんだが、同時に少しでも心当たりがあればすみやかに検査を受けることがますます重要になってきている。
初期症状は当てにならない
日本でHIV検査
現在、日本でHIV検査を受けようとすると大きく3つの方法がある。
➡病院で検査(診察代、初診料などがかかり、性病に関わるなんだかの症状が出ていないと保険が適用されないこともある。全額自己負担の場合3000~7000円の設定が多い)
➡保健所で検査(無料、匿名で検査を受けることができる。対面で人と話さなければならず、結果は通知や郵送ではなく保健所での面談になる。検査可能日も少なめ)
➡検査キットで検査(匿名、自宅で検査ができ、結果はWEBで確認。)
無料、匿名で受けれる保健所での検査も便利だが、出向く時間を節約でき、匿名で受けれる検査キットも便利だ。
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