狙われる宿命を背負う日本人旅行者
世界でも有数の安全で平和な国「日本」。街は低い犯罪率が保たれ、「スラム」や「ゲトー」のように近寄れないほど治安の悪い地域も存在しない。
経済的豊かさ、民族の気質、移民の少なさ。良好な治安を保てている要因を1つに絞ることはできないが、様々な要素が絡み合いながら世界でも有数の安全な社会となっている。
もちろん、どこもかしこもいつも治安が良い、というわけではない。軽犯罪は日夜各地で発生しているし、どんなに安全とは言え女性が人気のない夜道をむやみに歩くべきではない。
油断していると、脱法ドラックで錯乱した運転手の車が背後から突っ込んでくるかもしれないし、はたまた、ビルの屋上から飛び降りた自殺者が頭上に転落してくるかもしれない。
暴力事件や強姦も起こりうる。信じられないほど常軌を逸した凶悪犯罪も数年に一度は起こるというのが現状である。
あまり治安がよいとは言えない場所もある。例えば日本の「スラム」と例えて語られがちなのが、東京の山谷や大阪の西成である。
こうした場所は「飯場」や「ドヤ街」と呼ばれる日雇い労働者の街であり、大抵は「治安が悪い場所」として嫌煙される。
新宿歌舞伎町や六本木もいささか物騒な場所として語られる。不良外国人が屯していたり、暴力団関係者と肩がぶつかるかもしれない。
しかし、大抵はそういった場所ですらも「治安が悪い」と表すには少々物足りない。どちらかと言うと「ガラが悪い」と言う程度に過ぎない。
一部のぼったくりバーや怪しいクラブを除けば、たとえ深夜に女性が一人出歩いていても特別危険なことはない。
常識的な振る舞いを心がけていれば、どの町でも一般の人が危険な目に遭うことはそれほど多くない。
西成には足を運んだことが無いので分からないが、たとえば東京の山谷なら私が道を歩いていても危険を感じることは全くなかった。
東京のドヤ街「山谷」のいろは会商店街そば。路上にホームレスが寝ていたりと「ガラ」は悪いが「危険」ではない。朝からジョーがどこかへお出かけのようだ。ちなみにその方角に行くと吉原に辿りつくじょー。
結局、日本の犯罪率は依然として世界最低レベルを推移している。だから、海外からの旅行者も安心して観光を満喫できる環境が整っている。
外国人向けの観光ガイドには、六本木の一部のぼったくりバーへの注意を喚起していたりするものの「治安は良好」「夜でも安心」という文句が定番だ。
海外からの旅行者が道を歩いていて日本人に襲われ金品を奪われたり、タクシーの運転手に山奥に連れていかれてレイプされ惨殺されるなどという心配はまずしなくてもよい。
「犯罪率」を主軸に置けば、日本は世界一安全に旅が出来る国だろう。別の主軸、例えば隣国との政治的軋轢や自然災害等の危険度で測ってみたところで、やはり日本社会の安全度は突出している。
たしかに世界一の地震列島ではある。それゆえに建物の耐震性は高く、少々の揺れで社会システムがマヒするといったこともあり得ない。人々が狼狽することもない。
超巨大地震や巨大津波、火山の大爆発、凶悪テロなどが起こらない限りはいたって平穏な暮らしがほぼ約束されている。
医療や交通機関の整備も含め、あらゆる面で整っており、原発はいまだ心配の種だが、総合力は高く過ごしやすい国ということになる。
ここで日本を賛美するつもりは毛頭ない。ただ、これほど治安がいいというのは誇らしいことであり、日本人にとっては当たり前のことだであり、だからこそこれからも維持して行かねばならならず、またそうするだけの価値もあることだ。
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自然災害のことなど、少々話がそれたが、治安の話、海外での護身の話に戻りたいと思う。
こうした安全で平和な環境で身についた我々の習慣が、海外では裏目にでることがある。恵まれた環境に生まれ、その中でぬくぬくと育ち、今もそこで生活している。
気付くと、身も心もいつのまにか「日本使用」に調節されている。当然の結果として、日本で暮らすのに必要な能力以外は身に付いていない。これを「平和ボケ」と言ったりもする。
一般的な日本人が日頃から詐欺師や犯罪者から身を守ったり折衝しながら生き抜いてくということはまずほとんどない。ほとんどが善良な市民に近く、「悪い」といってもたかが知れている。だから「犯罪から身を守る」ことに慣れており、またそれに長けている人は稀だ。
日常生活を普通におくる上で、そういった意識を持つ必要性に乏しいのだから当たり前である。それよりむしろ普段の暮らしの中で求められるのは「嘘をつかない事」であり、「思いやり」であり、「周囲といかに上手くやるか」だろう。
大半の人々はそういった部分を意識しながら労力を割いて暮らしている。身に及ぶ危険と言えば、交通事故や自然災害、金銭的なものや仕事上で起こりうる問題をいかに回避するかが中心となる。
日本を出る時に意識を変えることができるかどうか
日本を一歩外に出れば、それが世界のどこであれ「日本よりも危険な場所」という事になる。程度の差こそあれ、犯罪率から考えてこれは間違いない事実となる。日本よりも犯罪率の低い国はこの地球上にほんのわずかしか存在していない。
アメリカ大陸、アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカ。そこが日本以外の「どこか」であれば、あなたは日本よりも危険な地帯に足を踏み入れたことになる。たとえその国が戦時下、紛争中ではなく比較的治安が良いとされている国であってもそれは同じことである。おそらくその国は日本よりも犯罪率が高く、悪人の割合も圧倒的に多いに違いない。
くどいようだが、飛行機がその国に着陸した瞬間に、あなたが犯罪に巻き込まれる確率がいくらか確実に高まったことになる。イミグレで入国を許可されたなら、あなたは日本よりも危険な国へと侵入したのだ。
日本であれば1000人の中にやっと一人の悪人を見つけることが出来るかもしれないが、あなたが今降り立った国では100人に一人、もしかしたら10人に早々と一人の悪人を見つける事ができるかもしれない。
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日本人が海外旅行をする、海外留学や海外出張をする。それはすなわち「わざわざ日本よりも危険で物騒な治安の悪い国へ赴き、身を危険にさらしながら、楽しんだり、勉強をしたり、仕事をする」ことである。
これは少々極端な言い方かもしれないが、残念ながら紛れもない事実である。そうだとすれば、身を守るために必要な条件も日本のそれとは異なってくる。日本で身に付けた常識や習慣、ものの考え方を一度白紙にするくらいの気持ちで、身心を「海外使用」に切り替えなければならない。
「日本の常識は世界の非常識」という言葉があるように、海外では日本人にとって非常識なことが平気で起こり、そいうった事柄の中には、身の危険に関わるものも多分に含まれる。
ところがこのことを十分に認識せずに渡航し、日本の常識のままで過ごす人々がいる。もしくは、頭では分かっていたとしても、とっさに日本人らしさが出てしまい、不利益を被ったり、身の危険に繋がることがある。
「よい勉強になった」とほっと胸をなでおろし笑い話の種にできる場合もあれば、たった一度の油断や誤った判断が悲劇を招くこともある。
運の悪い者から被害を受けるのだろうか、まんまと詐欺師や犯罪者の餌食になってゆく。そして最悪の場合、そういった認識の欠如から身を滅ぼすことなる。
海外で日本人が犯罪に巻き込まれるケースが絶えない。軽犯罪はもちろん、凄惨な事件もたまには起こる。そういった日本人を狙った詐欺や犯罪のほとんどは日本人の「騙されやすさ」や「良心」を巧妙に突いてくる。日本の常識で取った行動により、まんまと足をすくわれる。
日本では「騙されやすい人」がターゲットにされるかもしれないが、海外では日本人であるというだけで既に絶好のカモとして見られている。海外では詐欺師や犯罪者にとって「日本人=カモ」である。
簡単に人を信用してしまったり、困っている人を見過ごせなかったりと、日本と同じような感覚で下す小さな判断によってあえなく犯罪者のカモになってしまう。
これだけ情報が溢れる時代になり、その気になればあらゆる知識を手に入れることができる。渡航先で起こる犯罪のパターンや、海外ではなにをどのように気をつければよいのかを知ることが出来る。それでも、危ない目に遭い、時には命を落とす。
防ぎようのない事故ならまだしも、無知や警戒心の欠如によって殺害される凄惨な事件。そういったニュースを見る度に、日本人特有の認識の甘さや、心構え、周囲からの啓蒙不足を想わずにはいられない。「自分は大丈夫」という驕りからか、「楽しむ」という部分にスポットが当てられ過ぎるゆえか。
たとえそこが「観光立国」であろうとも、日本よりも「危険な場所に行く」という事実に変わりはない。観光立国であるがゆえに、金をだまし取ろうという輩も多い。それが貧しい国であればなおさらであり、世界のほとんどの国は経済的に日本よりも貧しい。
なにをどのように気をつければよいのか
何事も基本が大事である。日本においても子供は「知らない人について行ってはいけない」と教えられる。これはつまり「知らない人を信用してはいけない」ということである。「知らない人からもらったものを食べてはいけない」とも教わるかもしれないが、要は同じ意味である。
相手の方からあなたに話し掛けてきた場合はまず怪しいに決まっている。あなたが道を尋ねたわけでも助けを求めたわけでもないのに、向こうからあなたに近寄ってくる。特に、日本語で話しかけてきた場合は怪しさに拍車がかかる。
そういった輩はあなたからなんだかの形で金を引き出そうとしている。もちろん、状況によりけり、あなたに正当なサービスを提供することで金を払わせようとする場合もあるだろうが、犯罪や詐欺行為のターゲットにされているかもしれないと考える方が無難だ。
人と人が信頼関係を築くにはそれなりの「実績」を必要とする。この場合の実績とは一定の期間、虚偽のない信頼に値する関係を築くこと、であろうか。知らない人について行くと言うのは、その実績を無視した行為であり、相手を盲目的に信頼することだと言えるかもしれない。
たとえ実績に基づいた信頼が生まれたとしても、それがはたしてどれほど強固で揺ぎの無いものなのかをはかるにはそれ相応の機会や切羽詰まった状況に陥るなど何かしらの「篩」が必要だったりする。
個々の利益によって「裏切り」はいつでも起こりうるし、誰もが一番かわいがるのは大抵「自分自身」だ。そう考えれば、海外で知り合ったばかりの人間を盲目的に信用するなどということはまさに愚の骨頂である。
日本では、大人になり一定の力や経験を得ればほとんどの人は安全に暮らすことができる。表社会の住人が日々の暮らしの中で身の危険を感じる場面と言うのはあまりない。
日々接する人間の中に詐欺師や犯罪者を見つけ出すことはそれほど簡単なことではない。小さな被害をもたらす人間が職場や地域にいたとしても、命まで脅かされることはまずない。
治安もいい。女性でも夜道を平気で歩ける。電車の中で泥酔できる。タクシーは言った通りに走ってくれる。大方の人間は人を騙そうと考えるよりも、親切にしようと考える。モラルの劣化や自分本位な人も増えたかもしれないが、まだまだそういったエッセンスは根強く残っている。
日常生活を普通におくる上で、人を疑う必要性があまりない。もし裏切られたとしても心に傷が付く程度で、身の危険や命に関わるようなことはそれほど多くない。
人を信用するという事がなかば当たり前になり、リスクもそれほど無く、信用できる心の美しさも称賛される。困っている人がいたら助ける、という考え方も美徳として根強い。
ところが、こうした日本人特有の性質が海外ではつけ込まれかねない。身の危険を招きかねない。根が素直で警戒心の薄い人ほど気をつけなければならない。人を疑う習慣のない人ほど意識しなければならない。
まだ若く海外経験や人に騙された経験に乏しい方や、心に寂しさを抱えていたり、隙が生まれやすい方は要注意である。たとえ頭では分かっていても、いつでも真っ当な判断を下すことが出来るわけではない。
「笑顔でフレンドリーだから大丈夫そう」
「道を教えてくれたから親切な人」
「現地人なのに日本語が出来るから安心できる」
「困っているのなら助けてあげよう」
日本ならばさておき、海外ではどれも信頼し助けてあげるにはハードルが低すぎる。ところが根が優しく素直で正直なあなたはたちまち心を許し、また動かされてしまうかもしれない。警戒心は保ちつつも、自分なりの誤った線引きのもとのこのこと付いて行ってしまうかもしれない。
本当はこう考えてみるべきだ。
(やけにフレンドリーなのはなにか企んでいる証拠)
(道を教えたのは親切だと思わせるため)
(日本語が出来るのは日本人を騙すため)
(金を引き出すために困っているフリをしているのではないか?)
(もしこの人の「仲間」が現れ囲まれたら、自分一人の力で対抗できるだろうか)
日本では人を信用できる美しい心は取りあえず称賛される。騙される機会が少なく、騙されたとしても大きなリスクを伴わなければたしかに自然な話しだ。
実際はどうであれ、困っている人がいたら助けてあげるべきだと考える。本音と建前、個人差はあるにせよ、大方はそういう風に心や体が動くことだろう。
たとえ見返りを求めた親切な行為だったとしても、その見返りが「相手の金品を奪うこと」「強姦し山に捨てる」ことに設定されていることはまずない。
ところがそういった特性を逆手にとれば、日本人を騙し、金を引き出し、命を奪うことだって簡単だ、と考える悪人もいる。
日本人旅行者に近寄ってくる悪人の目的は、大抵の場合が金か体だろう。男に寄ってくる女は金、女に寄ってくる男は体が目当てだ。稀に男に寄ってくる男もいるが、そういった輩も体が目当ての場合が多い。(笑)
いや、笑っている場合ではない。
ことによっては金品を奪い、さらに命も奪い捨てる。金のために殺される場合もあれば、強姦され絞首された後、山奥に遺棄される場合もある。運よく命は活かされたとしても、目が覚めると体は血だらけで性器は激しく裂傷し、すでに性病を移されており身心共に一生苦しむことにもなる。
人種によっては、日本人に憎悪を抱いていたり、はたまた欧米人の中にはアジア人やその命を蔑視している悪人もいるかもしれない。そういった悪人にとって、日本人の命を奪い取ることにもさほど抵抗が無いかもしれない。
観光スポットにショッピング、レストランに現地での素敵な出会い。そういったものに心を躍らせるのと同じくらい、あなたの到着を待ちわびている悪人の思惑にも思いを巡らせてみるべきなのだ。
そのタクシー運転手はほんとうに行き先どおりに運転してくれるだろうか?あなたが女性で一人なら、襲われた時に力で太刀打ちできるだろうか?
旅程を遅らせてでも、安全な交通手段を取るべきではないだろうか?
あなたにすり寄ってきた日本語のできる観光ガイドの目的はなんだろうか?
目の前の男が差し出したカクテルに入っているのはほんとうにお酒だけだろうか?
「ナンパ」をされたいのは分かるが「レイプ」もされたいだろうか?
この恰好は、渋谷ならオシャレだが、その国では売春婦ではないだろうか?
「逆ナン」で胸を躍らせているが、片言の日本語を話すその美人は「美人局(つつもたせ)」じゃないだろうか?
そのお店は、ぼったくりバーではないだろうか?
その国で定番の犯罪パターンは事前に頭に入っているだろうか?
その国では、過去に日本人がどのような犯罪に巻き込まれて命を落としているだろうか?
そこがどこの国であれ、あなたはこれから日本よりも危険な場所に踏みこもうとしている。
いつどこでなににどのように気をつけるべきなのだろうか。すべては危険を自覚することから始まる。