詐欺師の目に、あなたはどう映っているだろうか。photo by Richard Crook
日本人を狙うタイの詐欺師
先日、タイの詐欺師が逮捕された。その男の名をウタイ・ナンカタンと言う。
タイでは珍しくもないが、ウタイ容疑者はレディーボーイ(ニューハーフ)である。40歳前後と言われているウタイ氏は、中年女性旅行者を装って、日本人男性をターゲットに多額の金を騙し取っていた。
バンコク都内のトンロー通り、スクンビット通りの路上で財布やパスポートを盗まれ途方に暮れた旅行者を装っては、日本人から金を騙しとり続けていた。過去、約10年間に渡ってこういった詐欺を繰り返し行っていたのである。
ウタイ容疑者は、同じような詐欺によいり過去にも数回の逮捕歴がある。それでも釈放されるたびに平然と詐欺を働き続け、ウタイ氏の被害にあった日本人は100人以上にも及び、その被害総額は3億円以上とも言われている。
ウタイ・ナンカタンの詐欺の手口
彼の主な手口はこうだ。
「財布やパスポートを全て盗まれてしまったのです。親から海外送金してもらうので、あなたの銀行口座に振り込ませてもらえないかしら?」
ウタイ氏は、シンガポールや韓国から来た「途方に暮れた旅行者」を装い、道を歩く日本人にこう訴えかけてくる。
対して、良心的な日本人は、異国の地で困り果てた目の前の彼女をどうにか助けてあげたいと思い、カード番号を教えてしまう。
すると、彼女はあなたの目の前でシンガポールの母親に電話をし、あなたの銀行口座を伝える。そして、母があなたの口座に10万バーツ(約36万円)振り込んだと伝える。
もちろん、すべてあなたを騙すための嘘だが、お人よしの日本人はまんまと安心し彼女の嘘を信じ込んでしまう。これまで100人以上もの人々を騙し続けてきたのだから、さぞかしそれは「迫真の演技」に違いない。ぜひ目の前で見てみたいものだ。
最後には二人でATMへ行き、あなたは彼女の母から振り込まれたことになっている10万バーツを引き落とす。その金を手渡すと彼女はお礼を言い残して、そそくさと立ち去ってゆく。しかし、あなたの銀行口座に彼女の母親からの送金などもちろんされてはいない。
10万バーツは無理だけれど、その時の持ち合わせを彼女に差出すことで協力し、小さく騙されたという方も少なくないのではなかろうか。
なにはともあれ、こういった手口により、日本人を標的にして少なくとも10年間に渡り、数億円にも及ぶ金を騙し取ることに成功してきたというわけである。
そんな彼の犯行の動機は、「以前仲が良かった日本人に騙されたこと、在タイ日本大使館からの日本人への注意喚起が不愉快だったと語っている」らしい。
過去、彼女が本当に日本人に騙されたのかどうか知る由もないが、なんて日本人は騙しやすい人達なのだろうと、彼女はさぞかし笑いが止まらなかったことだろう。騙し取ったお金は遊びや買いものにつぎ込んだと語っているらしい。
あっ晴れだ。
狙われる「騙されやすい」日本人
多くの日本人は「良心的」ともいえるし、たんに騙されやすいとも言える。大きく騙されたことはないけれど、私も自分の事を騙されやすい人間だと自覚している。もし20代前半のころの私がウタイさんの標的にされていたら、まんまと騙されて、ほぼ間違いなく10万バーツ手渡していたと思う。
こうしたお人よしの日本人の良心を狙った詐欺は、これまでも、そしてこれからもタイに限らずあらゆる場所で繰り返されて行くのだと思う。
こういった詐欺師にとって「日本人は騙しやすいカモ」であることをまず強く自覚するべきなのだ。こうした「よくあるケース」を頭に入れておくだけでも十分にこと足りる。
この「シンガポール人を装った詐欺」はとても有名なもので、ネット上でも被害に遭った邦人の記録や注意の言がちらほらと目につく。在タイ日本大使館も以前から注意勧告を発していたようだ。つまり、知っていさえすれば未然に防ぐことが出来るものなのだ。
一歩日本を出た時に、変な話「自分はカモだ」と自覚して頭を切り替えることが出来れば、自然と必要な知識を仕入れてより注意深くもなるものだと思う。
彼が釈放された暁には
さて、このウタイ・ナンカタン容疑者だが、過去数回の逮捕と釈放の末の今度の逮捕である。これまでの流れから推し測るに、おそらくまた次の釈放の暁には、めげずに同じ詐欺を試みるのではないだろうか?
ウタイ氏が再びアソークやスクンビットの路上に姿を現した時、その辺りを歩いているお人よしの日本人が、また懲りずに金を騙し取られることになるのだろうか。残念ながら、それは目に見えている。
多くの詐欺師は「日本人は騙しやすい」と考えているはずだ。だから、我々日本人は標的になりやすい民族だともいえる。タイの人々は親日的だと言われ、それは間違いではないと私も何度か実感してきた。
しかし、詐欺師や犯罪を企てる者にとって、日本人はとても美味そうなカモにしか過ぎない。どういった罠を仕掛けるのが効果的か、片言の日本語を覚えながら、今この瞬間も思索にふけっているはずだ。
日本を一歩出る時に、あなたがその事を自覚できるかどうかが、全ての鍵を握っている。と言ったら、少々大袈裟だろうか?
いや、すでに100人以上の日本人が彼の被害になっており、被害総額は3億円を超えると言うのだから、決してそんなことはない。これ以外にも、タイで詐欺師や軽犯罪の被害に合ったという日本人は数えきれないほどいるはずである。
日本人であるという時点で、私もあなたも「アローイ(おいしい)なカモ」であることをもう少し自覚した方がいい。
私もあなたも詐欺師にとってはアローイなカモだと心得よう。photo by Dorami Chan