タイ タイ料理

タイ料理好き?なら虫料理も食べれなくちゃ。

投稿日:2015年1月5日 更新日:

610スーパーの冷凍食品コーナーの一角を陣取るカイコの蛹やらコオロギたち。カエルやワニの肉などもある。

私はもともと「珍味」と呼ばれる類の食に強い興味を持っている。だから、いつでも新しい食との出会いに期待しながら暮らしている。数年前には、東京六本木のとあるレストランで生まれて初めてとなるカイコ料理を食した。昆虫食もイナゴくらいしか経験のなかった当時の私は、カイコ料理を「ゲテモノ」という風に認識していた。

同席した友人と私は酔っぱらっていたから、なかば悪乗り状態でドカドカとカイコを平らげた。一体あの夜何匹のカイコを噛みちぎったのだろう。見慣れぬ物体に私の胃袋もさぞかし困惑していたことだろう。珍食に興味があるとはいえ、素面ではできな食いっぷりだったと思う。

ここ数年の間に、昆虫食が「未来食」として注目され始めている。テレビでも取り上げられていたり、「昆虫食」や「虫料理」というワードで検索をかけても、ひっかかるサイトや記事の数は数年前に比べて格段に増えたように思う。

今世紀半ばには世界人口が100億を超え、動物性たんぱく質の不足が予想されている。人口増加や地球環境の変化に翻弄されながら、人類の食糧を確保し続けるのは容易なことではない。

FAO(国際連合食糧農業機関)は食糧問題解決の切り札として昆虫食を推奨しており、高栄養価や飼育のしやすさ、地球環境と生活への有益性の高さに期待が集まっている。しかし、特に先進国や日本では依然として「昆虫食=ゲテモノ」という図式が根強いように思う。

私もその図式に馴染んでいたうちの一人だったが、タイで「昆虫食を食べ歩く」という変わったテーマの旅を決行することになり、その後に色々と調べて行くうちに考え方に変化が生じた。初めて虫の露店の前に立った時は、タガメ辺りにただただ謝りたいほどに心底まいったが、色々な過程を経て、今では大抵の種類は食べれるほどになってしまった。

タイは「昆虫食王国」である。バックパッカーの聖地と呼ばれるバンコクのカオサンロードでは日が落ちると昆虫食の路上販売が始まる。ネオンライトを浴びた串刺しのタランチュラやサソリはやけに艶やかで、はじめてみた時はまるでおもちゃのようで余計に食品として見れなかった。物珍しさが欧米人観光客の目を惹き、中にはトライする勇敢な人の姿もある。

昆虫食はイサーン(タイ東北地方)料理の一つである。海や農業に恵まれなかった貧しい東北地方で生まれた辛い味の料理は現在タイ全土に普及したが、虫料理もその中の一つである。今でも東北や北部地域の方で盛んに食されているようだった。

私が初めて虫を齧った場所は、東北の玄関口、コラートであった。ナイトマーケットで恐る恐る買い求めてから、妙な高揚感の中一人部屋に戻り、鏡台に広げていざ試みた。ビジュアルに心が折れてしまい、結局、それぞれの種類をちょっとずつ齧るという妥協案のもと、初挑戦は「顔合わせ」程度で幕を閉じた。

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昆虫標本のような虫料理のフルコース。初心者は「室内で一人で食べる」のは避けた方がいい。

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ハーブを添えることで少しは食べやすくなるかと期待したが、御覧の通り威圧的なままだった。長い睨み合いの末、ついに「羽」の存在を知り、羽先をちょっとだけ齧ってこの晩は自分を許すことにした。

翌日の晩、ふたたび別の露店に挑んだ。売り子のオジサンの心強いサポートの甲斐もあり、バッタ系、ワーム系にゲンゴロウやカエルという風に、ついに一通り完食することができた。この時「誰かが見ていてくれると食べやすい」という謎の法則を発見し、同時にそれでも食べる気にならなかったタガメのオジキの凄みを痛感したのであった。

コラートでのニューイヤーフェスティバルの賑わいの中で虫露店を訪れるお客の様子を観察していた。祭りだからか、とくに若者の姿が目立った。制服姿の少女らのスナック、若いカップルのデート食、中年女性は夕飯の副食として買い求めていた。

ウドンタニーの街角では、蟻の卵の捕獲を見せてもらった。街中の並木に隠れた葉袋の巣を竹の棒で突っついてビニール袋に落し込むという原始的な方法だった。捕獲していたトゥクトゥクの運ちゃんは途端に蟻だらけになり、そばで見ていた私まで蟻の猛烈な奇襲を受けた。靴の隙間や踝にぐいぐい噛みついてきて取り払うのが大変だった。タイの蟻は大きく俊敏で凶暴だった。

ウドンタニーのイサーン料理レストラン「クルア・クン・ニット」では、オーナーの波乱万丈の半生を聞かせてもらいつつ、少々各上の虫料理をただで振る舞っていただいた。その虫料理も去ることながら、サービスに付いてきたマンゴーライスの味がうますぎで思わず笑みをこぼしてしまった。

このレストランはイサーン料理の有名店で、政府の要人もよく訪れるのだという。過去には元首相のタクシン氏やアピシット氏らも来店しており、オーナー曰く、彼らも昆虫食が好きなのだそうだ。

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チャカチャン(セミ)、チングリー(コオロギ)、ダックデー(蛹)など、屋台のものより「料理」っぽさがある。80バーツだが、ただで頂いて、食べきれずに持って帰った。

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未調理の蟻の卵。中には蟻の体をなしてきているものも。良く見るとそれぞれ顔がある。口の中でプチュッと弾け、味は豆乳のようだ。

 

コーンケーンのツーリストポリスとナイトマーケットの虫露店直撃取材も敢行した。ポリスマンのウィチットさんはやはり虫料理が大好物のようで、彼に通訳を頼んだのにも関わらず、途中から一人パトカーに籠って虫喰いに耽入ってしまった。

「一日の売り上げは5000バーツほど」だと、店主の女は答えてくれた。

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屋台脇で調理中のバッタ。はじめは薄月色だったのが、油面に浮き上がる頃には赤みを帯びていて、目を楽しませてくれた。

メコン川のほとりに位置するノーンカーイという街では、コオロギの養殖を見学させてもらった。イメージよりも小規模で庶民の副業として運営されていた。新鮮なコオロギを素揚げにしたものや、コオロギオムレツなるものをご馳走になった。挨拶を覚えたての幼児ですらスナックとしてコオロギや蛹を食べ慣れていた。「昆虫食市場」ありきの副業と暮らしに根付いたローカルフードを体感することとなった。

東北部のサラカーム県のコオロギファームはもう少し大きな規模で運営されていた。私が訪れた時にたまたまバンコクからきた料理番組のクルーが撮影しているところだった。コオロギ料理の新しいレシピを考案し経営主の老夫婦に食べてもらうという流れで、なぜか私も急きょ味見に参加させられる運びとなり、渋々番組に出演した。帰国後の放映だったので、はたしてどう編集されたのか確かめることは出来なかった。

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「伝統的なコオロギスープ」とのこと。撮影の合間に持ってきてくれた。

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スパイシークリスピークリケット。磨り潰したコオロギを小麦粉などと混ぜ合わせて揚げていた。

タイ北部の山岳地帯の少数民族の村では糞虫とセミをご馳走になった。カレン族の村にて昼間は牛糞をひっくり返しながら歩き、ラフー族の村では夜セミを取りに山を歩いた。雨期に竹を割れば「タケツトガ幼虫」を獲ることができるという。村と村を繋ぐ山道の脇には、雨期に割られたと思しき竹を何度も目にした。

彼らミャンマー国境付近の山岳の民にとっても、昆虫食はあくまで「スナック」という位置付けにあった。私が訪れた日がちょうど「今年初めのセミ獲り、試食会」と重なったようで、日が落ちると隣の村から若者たちが集まってきてセミ狩りに出掛けたので、私もそれに同行させてもらった。

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牛糞直下に糞虫あり。カレン族の民と牛糞をひっくり返しながら歩いた。

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 孵化したてのセミを炒めたもの。トウモロコシのような香ばしいさが口腔に広がる。ラフー族の民家にてご馳走になった。

 

バンコク、ルンピニの安宿の女性オーナーは眉をひそめて言った。「私はバンコク出身だから虫料理は食べないわ。あれはイサーン人の食べ物よ」。サラカーム県で出会ったバンコクテレビの女性ディレクターは「まさか!食べないわよ、私はバンコク出身だもの!」と激しく全否定した。

同じクルーの金髪の男は同じくバンコク出身であったが、今回の番組企画を通して新鮮なコオロギや昆虫食を体験したことで「ハマってしまった」らしい。バンコクでトライした際には、保存料などのせいかジンマシンが出てしまったのだが、しかし今回周ったイサーン地方の新鮮な素材を使った昆虫食は彼の体にも優しかったようだ。「スナック」をうまそうに齧りながら私の質問に答えてくれた。

バンコクのバーの女性はバンコク出身であったが、幼少期から両親の影響で虫料理に親しんでいたために、今でも日常的なスナックとして楽しんでいるという。しかしそういった環境にない「都会人」はむしろ、元々東北の貧しさとリンクした昆虫食のことを「東北の田舎者の食べ物」と言う風に蔑視しているかのような反応もいくつか見受けられた。

バンコクにはナナプラザというゴーゴーバーがひしめく賑やかな一角がある。そのそばの通りではよく虫料理の屋台を見かける。観光客や人通りの多い通りだからというのもあるのだろうけれど、ゴーゴーガールやその周辺で働く娘たちの中にはイサーン地方や北部の出身者が大勢いることも関連しているのではないだろうか。仕事前に買っておいて合間にスナックを摘まんでいたりするのかもしれない。

実際にナナプラザのとあるバーのカウンターからビニール袋に入った昆虫食が出てきたことがあった。やはり仕事の合間に摘まむ「スナック」なのだとその娘はいった。このときウェイトレスの娘の指先がタガメを綺麗に解していった光景が忘れられない。あれほど食べるのを躊躇していたタガメだったのだが、この娘の手にかかるうちに徐々に食べ物に見えてきたのだから不思議なものだ。結局、二匹のタガメを二人で完食した。

余談だが、まずはじめに彼女がしたことがタガメの羽を剥がすことで、つまりそれは「食べない部分」であり、私はコラートの宿の一室で羽先を齧った自分を思い出し複雑な心境であった。

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タイ、スリン県とカンボジア国境付近に位置するチョムチョム市場周辺。カンボジアからはタガメがたくさん輸入されているようだ。

 

ラオスやカンボジアの国境付近の市場には日々様々な昆虫食材が集まってくる。そこからタイ国内の市場へと広がっていくようだ。こうした市場にはタイ北部産のタケツトガ幼虫や東北部産のコオロギ系のようにタイ国内で養殖される国産品も並んでいる。

その一方で、中国産のカイコ蛹やカンボジア産のタイワンタガメなどのように輸入に頼った食材もかなり多い。もともとラオスやカンボジアなどの隣国でも昆虫食は盛んのようだし、中国に関してもしかり、どうやら種類ごとに周辺国からのルートが出来上っているみたいだ。

イサーン地方のスリン県に滞在中、カンボジアとの国境に位置するチョムチョム市場を訪れた。そこにも昆虫食材が豊富に並んでいたが、特に印象に残っているのはタガメの多さであった。料理されたタガメはタイ国内の露店で頻繁に目にするのだけれど、生きたカピカピのタガメが盥にうじゃうじゃしていて驚いた。1匹10バーツほどで売られていた。

ちなみに露店主の多くはカンボジア人が多い様であった。聞くところによると毎朝昆虫食材を携えて国境を越えてきて、夕方ふたたびカンボジアに帰るのだと言う。タイの場合、タガメはカンボジアから冷凍で大量に輸入されているらしいので、おそらく養殖が盛んに行われているのだろう。

また、下記のような国際的な流通経路も興味深いものがある。

 

Time (2001 年7 月号)にタイ北部のピサヌロークの食用昆虫卸売り専門業者の冷凍室にはタガメ,糞虫,バッタ,タケノコムシなどの常時10 トンの在庫があり,ここからタイ全土はもちろん,香港・台湾,そして日本へ輸出しているというのである。日本へは何が来ているのだろう。

タイでもっとも消費量が多いのはバッタだという.バンコク市内でも繁華街の夜店でバッタやコオロギを売っている.バンコクにある卸売り業者は400 人もの手押し車の小売や30 以上のレストランに卸しているという.ピサヌロークから供給されるらしい.こんなものにも販売ルートがあり,一部のものには国際マーケットさえあった.by タイ・ラオスの食用昆虫

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タイではバッタが最も多く消費されている。

じつは我が日本も一昔前まではタイに負けないほどの昆虫食大国であった。1919年にまとめられた「食用及薬用昆虫に関する調査」によると、全部で55種類の昆虫が食用とされていたことが分かる。また、1946年に刊行された野村健一博士の「文化と昆虫」によると20種類あまりの昆虫が食べられていたことが分かる。

長野県などは現在でもイナゴや蜂の子で有名だが、近代化の過程で日本の食卓からほとんど消え去ってしまった感がある。少々極端ないい方かもしれないが、足元で跳びはねるイナゴを見て「食べ物」と認識する日本人はもうあまりいないであろう。

まだまだ今の日本では昆虫食が「ゲテモノ」というカテゴリーに甘んじているのかもしれないが、もともと昆虫食が盛んに食されていたという日本の土壌を考えれば、じつは大きな潜在力を秘めているのかもしれない。

フランスの昆虫食オンラインショップKIBOのように、日本市場に潜在力を感じてビジネス展開を押し進めようとしている企業もあるようだ。食糧危機の救世主!?世界に広がる昆虫食

この記事によると、ベルギーの大学では健康食として大学の学食の献立になり、フランスのパリでは流通促進のための承認基準つくりが議論されている。現にフランスでは昆虫食を製造する企業がここ数年で140社設立されている。こうした流れは今後も加速して行くのではないだろうか。

今後は昆虫食の「視覚的な壁」をどう乗り越えるのかが、先進国における普及のキーポイントになってくる気がしている。そこでは、「食べる側」と「提供する側」の双方の努力が必要なのだろう。

一方、東南アジア諸国では今でも日常的に昆虫食を食べる習慣があり、市場も大きい。そして多くの場合、食材は「原型」のまま調理され、また消費されているように見える。

先進国と呼ばれる国々でも注目されているとはいえ、いまだゲテモノ扱いが一般的かに見える昆虫食だが、これを先進的な「未来食」と捉えるのならば、タイや東南アジアの民は我々の一歩も二歩も先を行っていることになるだろう。

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虫料理と並んで売られていた「カニ」。「カニなら食べれる」という方は多いが、こうして見ると、虫もカニも大差はない。

・おすすめの本

昆虫食入門 (平凡社新書)

-タイ, タイ料理

執筆者:


  1. 地球少年 より:

    初めまして、地球少年の篠原祐太と申します。普段は慶應大学に通う傍ら、昆虫食に関する活動もしております。興味深くブログを拝見させていただきました。参考になりました。ありがとうございます。実は今回、タイの食用昆虫業者さんの見学も含め、実際に現地にいってみようかなと思っているのですが、その時の話を少しでも伺えると嬉しいなと思い、連絡させていただきました。面識もない中で図々しくはありますが、ご検討頂けないでしょうか?返信お待ちしております。

    • hekison30 より:

      地球少年さん

      コメントありがとうございます。

      メールでのやり取りでよろしければ、可能な限りご協力させていただきたいと思っております。

      ただし、現状私がタイの昆虫食について知っていることのほとんどを、コメントしていただいた記事にまとめたつもりです。あれがすべてだと思います。

      どれだけお役に立てるかわかりませんが、お気軽にいつでもメールしてください。

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