photo by Natt Muangsiri
残念ながら、テロの嵐が吹き荒れる世相となった。
イスラム国やその共鳴者によるテロが欧米諸国を中心に相次いでいる。ロシア旅客機の墜落、フランスパリの同時多発テロ、アメリカのカルフォルニア州における銃乱射事件などは記憶に新しい。
こうしたテロは国境を越えて世界各地で勃発し、実行犯は神出鬼没のため、より一層我々個人の危機回避能力が求められる。
この記事では「タイにおけるイスラム国関係者(共鳴者)によるテロの可能性と旅行者がすべき注意点」について「私なりに」まとめてみたい。
年に数回のタイ長期旅行をライフスタイルに組み込んでいきたいと考えている私にとって、このトピックはとても重要である。
なにもタイ王国に限らずとも、この時期海外に出る方には共通して役に立つ部分もいくつかあるかと思う。
タイ王国は現時点においてイスラム国の標的になっていない。
まず初めに、前提として述べておきたいことは 「現時点においてタイ王国、及びその国民はイスラム国(IS)の直接の標的にはなっていない」という点である。
現在のイスラム国の標的は、キリスト教系の国や米国率いるイスラム国と対立する「有志連合参加国」、そしてシリア空爆を続けるロシアなどが中心とされている。
「有志連合参加国」とその参加内容は以下の通りだ。
イスラム過激派組織「イスラム国」に対抗する有志連合に参加する国々と、その支援内容を示した図。(c)AFP http://www.afpbb.com/articles/-/3040739
特に、米国やフランス、オーストラリアなどの有志連合参加国やロシアなどが果敢にシリア空爆に関わっており、イスラム国やその共鳴者側の人間にとって、そうした国々が高い優先順で標的に設定されていると考えられる。
ちなみに日本国は今の所「人道支援」という形の参加になっており、標的としての優先順位の高低には賛否両論ある。
※10月19日の総選挙で誕生したカナダ自由党のジャスティン・トルドー新政権は、「シリアの空爆から手を引く」という公約を掲げている。http://www.cnn.co.jp/special/interactive/35074449.html
タイ王国は今のところ対イスラム国の有志連合参加国では当然ない。くわえて、仏教国のタイはもちろんキリスト教を主体とする国家でもなく、宗教面からイスラム国と対立しているというわけでもない。
このような点から、少なくともタイ王国とその国民は、今のところイスラム国の直接的な標的ではないと考えてよいだろう。
そう言った前提を踏まえた上で、残る危険性と危機回避の可能性を探って行きたい。
①外国人観光客の集まる場所はなるべく避ける。
バンコクの異国情緒カオサンロード。通りは欧米からのバックパッカーで賑わい、毎晩お祭り騒ぎをしている。 photo by Eric Magnuson
タイを訪れる観光客の中には、有志連合参加国からの旅人も多い。アメリカ、フランス、オーストラリアやロシアからの旅人とは実際によく出会う。
有名なリゾート地だとパタヤやプーケットなどがすぐ頭に浮かぶが状況は同じだ。バンコクなら夜の繁華街や観光スポット、「バックパッカーの聖地」と呼ばれるカオサンロードも欧米人のメッカである。
タイを訪れる観光客がターゲットになった場合、こうしたスポットが狙われることは十分にあり得るだろう。
②イスラム国の標的となっている国の政府機関や施設には近づかない。
今月の初めに以下の様な物騒な情報が駆け巡った。
【バンコク時事】ロシアの情報機関がタイ当局に対し、過激派組織「イスラム国」とつながりのあるシリア人10人が10月にタイに入国し、タイ国内にあるロシアの関係施設などにテロ攻撃を仕掛ける恐れがあると警告していたことが4日、明らかになった。
タイの複数のメディアが警察の内部文書に基づいて伝えた。10人は10月15~31日にかけてタイに入国し、首都バンコクやリゾート地のパタヤ、プーケットなどに向かったという。タイ国家警察報道官は記者団に、文書が本物であることを認めたが、10人の身元や実際に入国したかどうかは確認されていないと説明した。http://www.jiji.com/jc/zc?k=201512/2015120400619&g=int
この情報の信憑性がいかほどのものか定かではないが、現在のところタイ国内においてイスラム国関係者によるテロは幸いにも発生していない。また、テロ計画の具体的な存在が明らかになったわけでもない。
この記事では「ロシアの関連施設」が標的として挙がっているが、その矛先が有志連合参加国であるアメリカ、フランス、もしくはオーストラリア関連施設やその観光客にもなり得るという認識は重要だ。
例えばバンコクには欧米諸国の大使館や領事館がある。アメリカ、イギリス、オーストラリア、ドイツ、オランダ、オーストリアなどである。
あらかじめそれらの場所を確認しておき、わざわざ近寄らないようにするのはもちろんのこと、市内を移動する際もルートを工夫するなど細心の注意を払いたい。
③空港や大きな駅にはなるべく長居しない。
不特定多数の人間が往来し、集まって来るという意味で、空港や規模の大きな駅もテロを起こすには適した場所だと考えられる。
特に、バンコクの国際空港であるスワンナプーム国際空港には欧米からの観光客やビジネスマンたちも多い。空港を利用する場合においても、不用意に長居しないといった対策はとることができるだろう。
また、ロビーや空港内のレストランなどで過ごす時間をなるべく短くし、すみやかにチェックインするというのもベターな振る舞だろう。
これは、チェックインするためには手荷物検査が必要なため、ロビーや飲食店に比べてテロリストが侵入しづらいと考えられるからだ。
同様に、規模が大きく利用者の多い駅なども、なるべく避けるか、長居しないようにしたい。これも、そうした機関がテロの標的になった場合、被害に遭いにくくするためである。
ちなみに、スワンナプーム国際空港からはバスやタクシーでバンコク市内へ向かったほうがよいかもしれない。
経験上、スワンナプーム国際空港からスカイトレインでバンコク市内へと向かう欧米諸国の観光客は少なくない。であるならばそのルートは避け、敢えて空港からタクシーで市内入りするのも一つの工夫である。
④映画館やライブ会場などの人が多く集まる「密室」を避ける。
テロリストの目的が「一人でも多くの被害を生みだすこと」だとすると、劇場やホールなどの「密室」で大人数が集まる所は、テロの標的になりやすいと考えられる。こうした場所では多くの人質も囲いやすい。
2015年11月に起きたパリ同時多発では、サッカースタジアムや劇場が悲劇の舞台となってしまった。
イーグルス・オブ・メタルというアーティストのコンサートが行われていたバタクラン劇場が襲撃され、銃乱射ののち、テロリストは観客を人質として立て籠った。
⑤欧米系のホテルや航空会社の利用は避ける。
たとえばインドネシアでは2009年、イスラム過激派組織によってジャカルタ市内で米国系高級ホテルの同時爆破事件が引き起こされている。
こうした事例からも、バンコクの外資系ホテルや欧米系の旅行者に人気のホテルなども十分にテロの標的になりうる場所だと言える。
どこまで警戒するかは人それぞれだが、私ならそういったホテルへの滞在は避けるだろう。そもそも、安宿を点々とするスタイルの私の旅に、高級ホテルの出る幕はほとんどないわけだが、、、。
おなじ理由から、欧米系の航空会社の利用はなるべく避けた方が良いかもしれない。航空機が狙われるテロに合わないようにするためである。
⑥日本国と日本人は完全にイスラム国の標的になった、という見解もある。したがって、タイにある日本人の集まる場所も警戒した方がよい。
過激派組織ダーイシュ(イスラム国)は2月12日、英語のプロパガンダ誌「ダビク(Dabiq)」の最新号をネット上で公開し、巻頭記事で「日本人は今や、戦闘員らの標的だ」と述べた。
同号は巻頭の2ページにおいて、今回の邦人人質事件の経緯を説明。殺害された湯川遥菜さん(42)と後藤健二さん(47)との写真も掲載した。
記事では、「イスラム帝国は金を必要としていなかったし、日本政府が身代金を支払わないことは分かっていた」としたものの、「傲慢な日本政府に屈辱を与えることが目的だった」と主張。その理由として、安倍晋三首相がダーイシュと闘う国のために2億ドル(約238億円)を拠出することを発表したことだと指摘した。
さらに、安倍首相によるこの発表までは、日本は「標的として優先度は高くなかった」と説明。「安倍晋三の愚かさにより、すべての日本国民が、今やイスラム帝国戦闘員らの標的となった」として、日本が困難な状況にあることを警告しており、「彼(安倍首相)の国民は、イスラム帝国の剣が既にさやから抜かれ、日本の異教徒に向けられていることを知るべきだ」としている。http://www.huffingtonpost.jp/2015/02/12/dawlah-target-japan_n_6675344.html
イスラム国やその共謀者にとって、日本国や日本人がはたしてどの程度の優先順位をつけられた標的なのかについては様々な意見がある。
有志連合参加国の中でも、あくまで「人道支援」に留まっている日本の優先順位は低いとする意見もある一方で、いまやアメリカやフランスなどと同等に狙われていると指摘する専門家もある。
タイ国内において、日系商業施設や日本人の多く集まる場所がテロの標的になる可能性がいかほどのものなのか。
可能性としては現状高くないように見えるが、念には念を入れて、足を運ぶのを控えるのも一つの判断だろう。
⑦タイ「深南部」には近づかない。
金銭目的の誘拐というのは、東南アジアや中南米では珍しくない。こうした誘拐は当然金銭を支払うことが解決の要になる。
対して、政治目的の誘拐というのがあり、イスラム国による誘拐は主にこれに当たる。
これは、金銭で解決できない部分が大きい分、より厄介であり、ことイスラム国の共謀者により誘拐されれば命の危機にさらされることになり得る。
タイ王国に滞在中の外国人観光客がイスラム国の共謀者に拉致される、といった事件はこれまでの所起きていない。
一方、同じ東南アジアのフィリピン南部のリゾートでは、カナダ二人とノルウェー、フィリピン人一人がイスラム国の共鳴者とみられるグループによる拉致が起こっている。ちなみにこの時拉致されかけた邦人女性がいたが、ボートから飛び降りて助かったという話だ。
2015年10月には南アジアのバングラデシュ北部において日本人男性がイスラム国を名乗るグループに銃撃されて死亡している。
ちなみに、バングラデシュはイスラム教を主体とする国であり、同じくフィリピンのミンダナオ島西部にはイスラム教徒の自治区が存在している。
もちろん、穏健で平和的なイスラム教徒の存在は当然容認すべきである。
ところが実際問題として、イスラム教徒の多い国や地域には過激派グループも蠢いており、であるならばそうした場所では観光客が銃撃や拉致の被害に遭いやすいと考えられる。
タイのマレーシアとの国境付近には「深南部」と呼ばれる警戒区域がある。
外務省の海外安全ページにおいても、この深南部は「レベル3(渡航の延期をお勧めします)」に設定されている。
この地域は、タイ王国からの分離独立を標榜するイスラム過激派組織が日常的に爆弾テロなどを起こしている危険地域である。
こうした地域はもともと外務省も警戒地域として渡航を控えるよう奨励しているが、イスラム国共鳴者の存在も否定できない地域である以上、尚一層距離を置くべきだろう。
「東南アジアの22のイスラム過激派テロリストグループがISISに忠誠を示している」とする専門家もあり、タイの深南部は余計に近づいてはならない場所となった。
そうした「警戒区域」に近づかない、というのはもちろんのこと、単純に「怪しい人物には近づかない」「近づいてくる奴は怪しい」という当たり前の危機管理も重要になってくる。
「○○に日本人が滞在している」という情報自体が、拉致や襲撃を企んでいるグループには高く売れる可能性もあり、なにげなく近づいてきた人間が密告者になることが無いとは言えない。
まとめ
日本国と日本人はイスラム国とその共鳴者にとっての確固たる標的となってしまった、と自覚する必要がある。
イスラム教を主体とする国や地域にはイスラム国への共謀者や過激派も多いと考えられるため、そうした地域への渡航は控えるべきである。タイで言えば特に「深南部」がそれに当たる。
タイ王国は仏教国であり、非有志連合参加国であるため直接的な標的国ではない。
しかし、常時国内に抱える多くの観光客や長期滞在者、彼らが密集する観光スポット、リゾートや大使館などの外国関連施設がテロの標的になることは十分に考えられる。
加えて、穏健派から過激派へと変化するイスラム教徒や、ごくごく平凡な普通の市民が共鳴・感化されて「ローンウルフ(一匹狼)」として犯行に及ぶ可能性を考えれば、どこにいてもテロや銃撃、拉致等への警戒心は保たれるべきであり、タイ王国に滞在する場合もそれは同じことである。
参考サイト
http://www.news-postseven.com/archives/20151117_364823.html?PAGE=2
http://www.cnn.co.jp/world/35071934.html
http://www.afpbb.com/articles/-/3063048
http://www.straitstimes.com/asia/se-asia/isis-has-eye-on-south-east-asia-says-terror-expert#xtor=CS1-10http://str.sg/o6z