カオサンロードやその界隈とは一体どのような場所なのか。
物価やホテルの相場を初め、路上に集う人々、また治安や際立った詐欺に至るまで、2016年現在の様子をレポートしていく。
カオサンロード。外国人旅行者やタイの若者で賑わう眠らない街だ。
周辺マップと主要エリア
カオサンロード。尖っていた「バックパッカーの聖地」は、今や軟な観光地に?
1960年代のヒッピームーブメントが、閉塞感に苛まれた欧米の若者たちをアジアへと向かわせた。
インド、そしてネパール。どん詰まりの山塊にあるはずの精神世界、彼らはそこにある種の救済を求めた。
その後、世界の若者はバンコクへと流れ込んで行き、その果てに、カオサンという世界的なゲストハウス街が形成されていくことになる。
日本の若者がバンコク中華街の外れ、7月22日ロータリー周辺に一つの旅の拠点を作っていった。一方で80年代、カオサンには欧米人バックパッカーが集い始め、90年代にはついに世界的なゲストハウス街の地位を確立した。
当初カオサン界隈は「不良外国人のたまり場」という物騒なイメージから、地元のタイ人もあまり近づかないようなエリアだったと言う。
ところが今や観光地化が進みすっかり様変わり、昔の旅人が「カオサンは年々酷くなる」と嘆きたくなるほど、消費的な場所へと成り下がってしまったのかもしれない。
「ガンジャ、ガンジャ」と道行く旅行者に小声で囁く売人や、街角で見かける年季の入ったヒッピーの姿。
それらは辛うじて残るカオサン本来のエッセンスなのかもしれないが、2016年現在、ここは家族連れの旅行者や若いタイ人が遊びに訪れるような異国情緒溢れる街に変貌を遂げた。
ちなみにカオサンロードの「カオサン」とはタイ語で「白米」という意味。これは、もともとこの一帯に米問屋が多かったことに由来すると言われている。
激安ゲストハウスからリゾートホテルまで
世界に名立たるゲストハウス街だけあって、メイン通りから路地裏に至るまで様々なレベルの宿泊施設が密集してる。
特に多いのが、一泊1000円~2000円ほどの安宿だが、中には一泊400円ほどの格安ゲストハウスも隠れており、特にこうした宿には貧乏旅行者や沈没者、外籠り者が長期滞在していたりする。
一方で、新しホテルも次々に建設され、ここを訪れるたびに新しい建物が目に付く。メインのカオサンロードにすら、観光地化を象徴するような一泊4000円以上のプール付きホテルが堂々と聳え立っている。
安宿やホテルを含む多種多様な建物が立ち並び、じつに混沌とした様相を呈している。
衣類や雑貨
旅の必須アイテムから、例えば「偽造学生証」のような違法アイテムに至るまで「旅に必要なものはなんでも揃う」と言われるカオサンだが、今や観光地でもある以上高めに値段設定されているものも多い。
特に衣類や雑貨類は通常の2倍から3倍の値段に設定されている印象。
したがって、ここでしか買えないお土産等を除いて、買い物はあまりお勧めできない。
長期計画の貧乏旅行者でもない限り、カオサンで旅のアイテムを買い足す必要もないだろう。
100バーツのサンダル。観光地価格が基本だ。
お土産などどうしても欲しいものがあれば必ず値引き交渉をするべき、いや値引きしたって少々高いくらいだろう。
お土産ではないが、例えば、サングラスの相場は250バーツ、店員が「値下げできるよ、いくらなら買うの?」とった具合に会話が始まる。
粘った末、200バーツまで下げてもらったが、他の街の一般のタイ人向けの露店で買えば100バーツかそこらで十分に買えるものだったりする。
私はなるべく早くサングラスが欲しかったため、この額で買ってしまった。それでも600円ほどだが。
安いパッタイ他、屋台飯
カオサンロードを歩けばガーリックの芳ばしい香りが鼻腔を突く、これには腹の虫が黙っていない。
トッピングによって50バーツから70バーツほど。
少し離れたチャクラポン通り沿いには40バーツ以下に収まるパッタイ屋台、カオ・マン・カイ屋もあったので、色々当たってみるといい。
他にもフルーツ、焼き鳥、マンゴーライス、そしてロッティーまでバラエティーは豊富。
マッサージ
カオサン界隈のマッサージ店の相場は30分で120~150バーツほどだと考えていい。営業時間は朝9時頃から深夜12~1時頃までやっている店も多い。
マッサージの種類はフットマッサージ、バック&ショルダーやボディーマッサージのように分かれている。
店の前で施術を受ける観光客の姿はカオサンの定番風景、フットマッサージは主に足裏からふくらはぎの範囲で店の前に並べられた椅子で受けることになる。
一方、ボディーマッサージは店内の個室で整体のような施術を受けることになる。
マッサージ師は新人からベテランまで当たりはずれがある。
タイにはいわゆる「いかがわしい」マッサージ店が無数に存在している。
まったくもって健全なマッサージ屋もあれば、店の奥や二階の個室で場合によっては淫らな施術を施したりという店舗も珍しくない。
カオサン界隈のマッサージ屋はいつも欧米系旅行者で賑わっており、通りからも見える店の前で施術が行われている。
そうした様相だが、ここでも探せばいかがわしい店や交渉可能な施術師も隠れていることだろう。
タトゥーショップ
カオサン周辺にはタトゥーショップも多いが、私自身はまったく興味がないので相場はよくわからない。
タイの伝統的な入れ墨をサクヤンと言う。
このサクヤンは、仏教的な信仰心や願い、魔除けや厄除けと言った意味合いが強いと言われており、例えば日本の和彫りと同じようにタイの伝統的な入れ墨だと言える。
素人目には、カオサンロードに軒を連ねるショップは伝統的な入れ墨というより観光客相手の手軽なタトゥーという印象。
もちろん興味のある方は覗いてみたらよいが、特に衛生面からこうした場所で彫ることはまずお勧めできない。
例えば、タイの伝統的な入れ墨であるサクヤンは、タイにおけるエイズ感染経路の一つとして指摘されているが、観光客相手のタトゥーショップはなおさら「常連客」を相手にしていない商売故、衛生管理に大きな不安が残る。
あまりに安っぽい柄を体に刻むのは理解に苦しむ。
ぼったくりアイテム、鮮度の悪い昆虫食屋台
山岳民族やチェンマイからの売り子
ドラマ、映画の撮影
カオサンロード周辺の治安
カオサン界隈の治安は基本的に良好、他の地域に比べて特別に物騒、柄が悪いといったことはない。
ただし、旅行者が集まる土地柄ゆえ、彼らを狙った詐欺や犯罪も溢れており、事前の情報収集や海外において必要な最低限の警戒を怠った時に巻き込まれてしまう。
この界隈で有名な詐欺や犯罪を紹介して行きたい。
高級スーツ詐欺
カオサンでわざわざスーツを買う旅行者なんているのだろうか?
カオサンロードにはなぜかスーツ店が少なくない。しかも「高級スーツを安く買える」という触れ込みで外国人旅行者をターゲットに売り込んで来る輩がうようよしている。
彼らは炎天下でもスーツにワイシャツ姿でカタログ片手に近付いてくる。短パンにTシャツ姿の旅行者にスーツを売りつけようとまとわりつく光景にも違和感を感じなくなるほどカオサンは混沌としている。
私の聞き込みによると彼らの多くはミャンマー人。一人ひとり面構えを見ていくと、やはりどこか怪しい顔ばかりだ。
こちらが日本人と分かると自分の知っているわずかな日本語を連呼して気を引こうとする。私に声をかけて来た男は「ヤマモトヤマ」の使い手だった。とにかく「ヤマモトヤマ」を連呼しながら自称「高級スーツ」を売りつけようと迫って来るのだ。
いやはや、不思議だ。
「上質なスーツをすげえ安く買えるぜ?」と、こんな風。悪いがその面、いかにもうそ臭い。
「普段スーツは着ないんだ」と断ると「一着くらいは持っておいた方がいい」なぞと食い下がる。
「これからどこへ行くんだ?」、諦めさせるために「アンコールワット」などと言ってあしらう。すると今度は「またバンコクに戻るんだろ?今買っておいて後で取にくればいいじゃないか?」としつこい。
こんな感じの押し問答、いやいや粘り強いわけだが、どうやら彼らは「高級スーツ詐欺」を実行する詐欺師たち。カオサンで買ったはずのものとは別のボロボロのスーツがあとで日本に届くんだとか。
ことに真相はさておき、くれぐれも騙されないように注意したい。わざわざカオサンでスーツを新調する日本人などまずいないだろうが。
王宮休み詐欺
カオサンロードの南側を走るラーチャダムヌーン・クラーン通りで声をかけられたのがかの有名な「王宮休みだよ」詐欺。
路肩に停まったトゥクトゥクの運転手。「どこへ行くの?」「王宮(ワット・プラケオ)」と答えると「今日は特別な行事があるから王宮は休み」とか「今日は午前中パレードがあるから午後からしか入れない。どうだい、代わりに宝石店へ案内してあげるよ」とか「洋服店に連れて行ってあげる」という風に突飛な提案でぼったくり店へ連れて行こうという魂胆だ。
こうした詐欺は王宮やワット・プラケオ、ワット・アルン、ワット・ポー周辺でも盛んのようで、ガイドブックにも載っているほど有名なもの、事前に知っていたり並みの警戒心があれば簡単に回避できる詐欺だが、いまだに無くならないというのは被害者が少なくないということだろう。
ハトエサおばさん
王宮前広場によく出没するのが通りがかりの旅行者にハトの餌を撒かせて高額料金を請求するハトエサおばさん。
今となっては笑い話、料金こそ払わなかったものの、私も過去にまんまと餌を撒かされた口。その時の詳細はこちらの記事にまとめてあるので暇つぶしに読んでみて欲しい。
「女、マッサージ」
また、カオサンロードとチャクラポン通りの交差点に多いのが「女、マッサージ」と声をかけてくるトゥクトゥクドライバー。
一度、物は試しということで若いドライバーの提案する「ツアー」についていったことがあるが、危険こそなかったものの苦い経験となった。
タイで風俗や女遊びに行きたいのなら、ナナプラザやソイカウボーイ、タニヤなど自分で情報収集して行く方が断然よいだろう。下手に紹介者を介すればマージンが発生するため高めの料金でぼられるのが落ちだ。
また、カオサンロードを歩いていると「ガンジャ、ガンジャ」という誘いもたまにあるが、当然興味本位で試すべきではないし、とくにタイの場合は密告制度もある故、そうした輩とはなるべく関わらない方がよいに決まっている。
睡眠薬強盗
睡眠薬を飲まされる場所やタイミングは様々のようだが、要はカオサン界隈で知り合ったばかりの人間となんだかの形で酒を飲むことになり、グルの店側の仕業かそれとも相手が持参したものなのか、睡眠薬入りの酒を飲まされる。朝になると財布やクレジットカード、そのた諸々の貴重品がない、というお決まりの展開だ。
仕掛けてくる相手が同じ外国人バックパッカーの場合もあれば、美人のタイ人女性の場合もあるが、結局いつも話しかけてくるのは相手の方。
「向こうから話しかけてくる場合は怪しい」というのは危機管理上の大原則だが、旅先での出会いにウキウキ、もしくは美女の色気にメロメロ、それで引っかかってしまうわけだ。
例えば「どこでなにを飲むのか」自分で提案する、それが通らないようでは何かしらの魂胆を疑うべき、これも一つの方法だろうか。相手が主導権を離したがらない場合、仲間の待つ場所やグルの店に連れて行かれるのではという疑念が浮かぶ。
カオサンにはいくつかクラブがあり、売春婦が客をハントするスポットになっていたりする。
店で働く娼婦のように一定のしがらみがない分、個人で客を取ろうとするフリーの売春婦はいろんな意味で危険だと考えた方が無難だろう。
逆ナンを装い、どこかのタイミングで睡眠薬入りの飲み物を飲ませる、もしくはそれを塗布した食べ物を食べさせる。相手が寝てる隙に窃盗を企てる女性やレディーボーイもタイではまったく珍しくない。
こうした犯罪は欧米人も含め全旅行者がターゲットになっており、実際に多くの被害が報告されている。
いかさま賭博
カオサンロードの入り口付近で中年のアジア系男性に声をかけられた。「その靴、いいよね、私の娘のと同じだ!」。
(だから何だい?)という如何にも怪しいとっかかり、だがまだ若く初心な旅行者、優しく親切な人は徐々に会話に引き込まれてしまう。
「君はどこから来たの?」
「日本です」
「やった!私の娘は日本に行きたがっているんだけど、彼女に色々と日本の事を教えてあげてくれないか?」
などという展開から、サウジアラビアとタイのハーフで43歳というやけにフレンドリーなそのおじさんは、一緒に食事をする約束を取り付けようとする。
「明日スクンビット駅のターミナル21(ショッピングモール)の前に12時でどうだい?」
「OK」、一応メモしてそこで別れた。
怪しくもちょっと行ってみようかなという好奇心の疼き、しかし時はちょうどデモの真っただ中、バンコクの各所がデモ隊で占拠され、テロの心配もあった頃、人が集まる中心部に行くのは気が引ける、どうしようか。
結局、時差のせいか寝過ごした私は、もう彼に会うことはなかったわけだが、これが有名ないかさま賭博の序幕だったらしい。
最終的には家に招かれ、家族を装った共犯者たちとのトランプや賭け事の一員に。いかさまで負かされ、現金や金品を収奪されるという被害がちょくちょく出ているらしい。
カオサンロード以外の主要エリア
ラムプトリ通り
カオサンロードの一本北側を走るのがラムプトン通り。
カオサンよりも道幅が狭く、土産物屋の数がぐんと減り、昼間はより静かだが、夜になるとレストランがにぎわいを見せそれなりに騒がしくなる。
余談だが、カオサンロードからラムプトン通りへと抜けるいくつかの細い路地は圧巻だ。
土産物屋が両脇に犇めく賑やかな路地から、先の見えないゾクゾクする路地まである。毎回わざとそうした路地を試して変化を探って楽しむ。
路地の小さなバーでは顔見知りのネパール人が働いている。カオサンに来ると毎回挨拶がてらそこへ飲みに行くことにしている。
いつも素敵な笑顔、「ハ~イ、ロングタイムノ~スィ~」と言って握手を求めてくる彼だが、果たして本当にこちらのことを覚えてくれているのか、前回の話などを全くしない故に多少の疑問が残るが、、、。
ワット・チャナ・ソンクラームを取り囲むゲストハウス街
寺院、ワット・チャナ・ソンクラームを取り囲むようにコの字に走り、塀沿いに生い茂る豊潤な緑と、その木陰が安堵を与える落ち着いたゲストハウス街。
それなりに人通りはあるものの、カオサンロードの狂騒とはほとんど無縁、日没後多少騒がしくなるものの、まあ静かに過ごすことの出来るエリアとなっている。
激安宿よりも中級レベル、レストラン併設の小奇麗なゲストハウスが目立つ。マッサージ屋、土産屋も点在するがカオサンのような猥雑さに乏しく、大人の雰囲気が漂う通りと言える。
この通りの一番奥の安宿には毎回必ず泊まり、その周辺の食堂群も行きつけになっている。
緑が生い茂る、日陰の豊富な通り。地面も平板をはめ込んだ丁寧な作り。
夜、チャクラポン通りと交わる側の通りは、ライトの装飾が幻想的ですらある。
タナオ通り(バンコク旧市街の名残)と東側の安宿街
タナオ通り。ジュエリー、アクセサリーショップが軒を連ねる。
あまり知られていないことだが、今でこそバンコクの異国情緒と化したカオサン周辺、じつはこのエリア「旧市街」と言えるほど歴史の深い場所でもある。
その歴史を象徴するのがこのタナオ通りで、やけに整った建物の連なりは150年以上も前のラーマ五世の時代に計画的に作られたもの。
このタナオ通りはこのまま南へと延びており、いずれたどり着くプレーン・プートン通りはタイムスプリップしたかのように当時の面影が漂っている。
カオサン周辺はドコモそうだが、このタナオ通りの東側もゲストハウス街になっている。
タナオ通りの東側に伸びるダムヌーン・クラーン・ヌア通りにも安めのゲストハウスが隠れている。
カオサンまではわずか数分の距離、しかも喧騒からは距離を置けるので、安く静かに過ごしたいならこちらのエリアをアジトにするのも悪くない。