タイ東北部のスリン県で人生初のサムローを体験する。
2カ月と1週間の旅の間、色々な乗り物にのった。トゥクトゥクやモタサイ、バス、それにソンテオなどを使うこともあった。とくにトゥクトゥクやモタサイは小さく無防備だから少々危なっかしく感じるけれどしょうがない。これがタイのスタイルなのだし、使わなければ移動がままならない。
タイの交通事情
タイは交通事故が多い国だ。WHOのまとめによると、2010年、タイの10万人あたりの交通事故死亡者数は38人、これは世界で三番目に多い数字らしいのだ。なかでもオートバイによる事故が多くて、死因の原因の多くはヘルメット未着用にあるともいわれている。たしかに旅の間たくさんのノーヘルライダーを目撃した。
あらゆる乗り物が入り乱れて走る交通の濁流。この交通事情も事故を誘発するのだろうと思う。飲酒運転、運転マナーの悪さなど他にも色々と原因はあるのだろう。対向車が来ているのに追い抜かそうとしたり、ウイスキーをかっ食らってトゥクトゥクを運転する奴も実際にいた。
一家で一台
3人4人乗りはあたりまえだ。よく「一家に一台」というが、「一家で一台」に乗っていたりする。とくに田舎の方にいくと、家族が4人で一台にのっている光景もよく見かける。幹線道路にて、前方のバイクから子供の足が横に突き出していると思ったら、母親が子供を姫様だっこしていた。これは父が運転する三人乗りだった。もちろんノーヘルである。
警察と市民の意識は?
警察の方もゆるい。毎日各所で一定時間の取り締まりが実施されているようだったが、それ以外の時間帯は無関心に見えた。管轄の部署以外のポリスははなから無関心だとカオサンロードにいた通訳のタイ人は言った。眼前を通過するノーヘルライダーを見過ごすポリスの光景はいささか奇妙であった。
民衆の方の意識も薄い。ヘルメットとは安全のためじゃなく200バーツの罰金を回避するためのアイテムであると考えている者が多いようだった。実際にそう語ってくれたし、コーンケーンのとあるポリスマンもそうタイ人の性格を表した。
「警察に知り合いがいれば見逃してもらえる」とスリン県のカフェで働くおばちゃんは言った。
「そもそも正規に免許を取得した人など2~3割程度」とも、可笑しそうに教えてくれた。
取り締まりが緩くなるためか、日が暮れると未着用率がぐっと上がる。
ノーヘルの少年が幹線道路をウィリーでぶっ飛ばしていた。東北の街ではよく似たような光景を目にした。そのたびに私はなぜかちょっと嬉しくなった。
ノーヘルタイ人、その心は?
私ほど、タイ人にヘルメットをかぶらない理由を尋ねた日本人はいないのではないだろうか。興味があったから、少しでも英語が出来る人に出会ったら、そんな変な質問をしまくった。
「面倒だから」
「髪形が乱れるから」
「暑いから」
「サバイだから(気持ちよい)」
聞いても聞いても彼らの口から出てくる言葉はだいたいこんなところだった。先の心配より今の心地よさを重視する人たち。これが私のタイ人に抱いた一つの印象だ。
確かにあの昼間の炎天下でヘルメットをかぶるのは相当な忍耐を要する。そもそも歩かずにバイクに頼るという姿勢も、なんだかタイ人らしい。炎暑の中をあるきたくないのは分かるが、運動不足解消のためにも、もう少し歩いた方がいいと思う。
トゥクトゥク
東北部の街、コーンケーンのトゥクトゥク
これは5分10分程度の短距離の移動に便利である。だいたい50バーツから150バーツの間の値段ですむ距離に多用した。
値切り方だが、行き先を告げて、100バーツと言われたら、私の場合は半額の50バーツから始める。すると大抵は70~80バーツに納まることが多かった。なかには、50バーツと言った時点で不機嫌になって去ってしまう運転手もいるけれど。この値切り方はあらゆる場面で同じく使った。
交通の濁流の中を風邪を切って走るのは爽快だった。濁流の中の景色は日本では味わえない、ちょっとしたアトラクションとも言える。
夜のトゥクトゥクはネオンの装飾を煌々と光らせて走る。はたから見ているだけでも目を楽しませてくれる。
トゥクトゥクは少々危なっかしい。シートベルトもないし、内と外をきちんとしきるドアもない。もし激しく横転したら車外に放り出されるか、路面にたたきつけられ重傷を負う可能性は高い。だが開放的な乗り物は、タイの醍醐味の一つだと思う。
いつも最悪の事態を想像しちゃう
チェンマイを走るソンテオ
地方都市の街中、それに小さな街から街への中距離の移動ならソンテオも役に立つ。ソンテオはルートを知るまで大変かもしれないが、慣れてしまえばその安さが際立つ。乗車人数や種類などにもよるが、大抵20~40バーツほどと安価で、最も使い勝手がいいかもしれない。
混んでいる時は10人ほどがぎゅうぎゅう詰めになる。座れない乗客は後ろのステップに突っ立ったまま、体の半分は車の外にはみ出る。幹線道路では時に80キロ以上で飛ばす運転手もいるが、もちろんシートベルトなどない。
もし事故が起こったらどうなるのか想像すると恐ろしい。おそらく乗客同士が激しく激突し、車外に放り出され、後続の車やトラックに踏みつぶされるかもしれない。しかし、そんなことを言っていたらなにも乗れない人になってしまう。
長距離移動には飛行機か大型バスが便利だろう。私がチェンマイからバンコクに戻る際に乗ったバスにはシートベルトがついていなかった。大抵はついているのだが、なぜかそのときはなかったのだ。二階の一番前の席に座っていた。前はフロントガラス、前のスペースをフル活用して足を悠々と伸ばしとても快適にしていた。
ふと思った。もし急ブレーキを掛けたら俺はガラスをぶち破って外に飛びだしてしまうかもしれない。私はなぜかいつも最悪の事態が頭をよぎる。飛行機に乗る時も必ず墜落したりハイジャックされることを想定して覚悟だけはして乗る。そうすることで、いざと言う時に狼狽したり震えおののかずにすむようにしたいのだ。
どうする事も出来ないので一応妄想した。もし急ブレーキがきたら、ガラスの前の鉄の棒に何とか捕まって車内にとどまろうと。結局何事もなくバンコクに到着した。
ちなみに、途中でスコールに見舞われた。風で木々が大きく揺れ、道路に路肩の砂埃が舞い上がった。これから竜巻が起こりバスもろとも飲みこまれるのではないかと思った。
雨はすぐに止んだ。
モタサイは遠慮したい
少女はノーヘルだが、これがタイの日常的な風景である。
モタサイは極力避けた。やはりバイクはリスクが高い。一度だけ乗ったがヘルメットを着用してびくびくしながらだった。普段バイクに乗らないから、余計に怖かった。
小さな車体を活かして車と車の間を縫うようにすいすい進んでいく。バイクに車にトゥクトゥクにみなごちゃ混ぜで走るなか車線を歪に変更し大胆な方向転換をしたりもする。
(俺の命はこのオヤジにかかっている)
ふと運転手を見るがどうもその自覚がある様には見えない。それどころか、危なっかしい別のバイクの運転を罵倒して笑いながら豪快に加速する。やはりあまり乗らない方がいいだろう。
女性の横座り、幼児の体幹に驚き
タイ人の若い女の子なんかがノーヘルで、器用に横座りでモタサイに乗っていたりするのを見ると文化の違いを痛感するのであった。
親しくなったタイ人のバイクの後ろに何度か乗せてもらったが、その時はノーヘルに甘んじた。ヘルメットがなかったし、だからといって断わるといった状況でもなかったからだ。親切を素直に受け取りたかったのだ。
確かに風がここちよかったし、タイ人の気持ちがよくわかったが、しかし事故ったら終わりだ。
友人とまだ幼い息子と三人のり。あいだの幼児が乗車中にも関わらず陽気にぴょんぴょん跳ねた時は、さすがにはらはらした。うしろから抑えようとしても、嫌がって振り払うのである。しょうがないからいつでもつかめるように、両手を構えてスタンバイしていたものだ。
しかし慣れているためか絶妙のバランス(いい体幹してる)で私の心配は杞憂だった。ああ、こうやって育った結果が街中のバイク乗りなんだと思うと、タイのバイクの現状にも納得できる気がした。
まとめ
俺は歩くのが好きだから旅の間もよく歩いた。タイの炎天下は過酷だった。
日中40度を超すこともざらなで、炎熱に頭がくらくらした時は、日陰のありがたみを実感したものだ。私のようにストイックになり過ぎずに乗りものを上手く使おう。
日本と比較すれば危なっかしい乗りものだらけだし、いいだしたらきりがない。
しかし、現に交通事故が圧倒的に多いのは確かで、心がけ一つで巻き込まれるのを防ぐことは確実にできる。
タイ人にとっては「マイペンライ(気にしない、大丈夫)」かもしれないし、そこがタイの魅力でもると思うが、旅行者にはマイペンライで済まない事もあり、そこに対してはきちんと予防策をとりたい。