2019年逮捕時のウタイ氏、タイ東北部ウドンタニ県出身。(https://www.fnn.jp/posts/00420370HDK)
やはりまた現れた。
日本人旅行者を狙ったタイ人女装詐欺師、ウタイ・ナンタカン氏(43)。
2019年2月に詐欺容疑でじつに6度目の逮捕、去年9月に釈放されてからたった2カ月後の出来事だった。
その間、毎度お馴染みの日本人男性を狙った寸借路上詐欺で、シンガポール人、香港人、台湾人の女性旅行者を装い10名の日本人男性から93万円ほどだまし取ることに成功している。
ウタイ氏は少なくとも2005年から同様の手口で犯行を繰り返しており、延べ数百人以上の日本人を騙し、被害総額は3500万円とも、2億、3億とも言われている。
2015年逮捕時のウタイ氏(https://www.fnn.jp/posts/00420370HDK)
2015年の1月の5度目の逮捕の際、このサイトでも紹介していた。
その記事の中で私はこう予言した。
彼が釈放された暁には
さて、このウタイ・ナンカタン容疑者だが、過去数回の逮捕と釈放の末の今度の逮捕である。これまでの流れから推し測るに、おそらくまた次の釈放の暁には、めげずに同じ詐欺を試みるのではないだろうか?
ウタイ氏が再びアソークやスクンビットの路上に姿を現した時、その辺りを歩いているお人よしの日本人が、また懲りずに金を騙し取られることになるのだろうか。残念ながら、それは目に見えている。
そして4年越しの再逮捕。
「予言」とは大げさで、過去の流れからも当然の結果と言える。
寸借詐欺師、ウタイ・ナンタカン氏の手口
ウタイ氏は日本人観光客も多いバンコクのスクンビットやトンロー、シーロム、アソークなどに現れる。
「バンコクへ向かうバスの中で財布やパスポートを盗まれ、ホテルにチャックインできずに困っている」
「財布やパスポートを盗まれてしまった。明日までにシンガポールに帰らなければならないが、お金が無くて困っている」
「貴重品を盗まれ途方に暮れる外国人旅行者」を装い騙しやすい日本人男性だけに言い寄るというのが彼の(彼女?)常套手段だ。
あるケースでは、その後の展開はこんな風だ。
「日本人の知り合いに助けてもらうので携帯電話を貸して欲しい」
電話をかけてみるものの「繋がらない」と困った表情を見せてさらに同情を誘う。
その後、母国の母親など家族とやっと連絡が繋がったと嘘をつく。
そして、「家族からお金を振り込んでもらうから、あなたの銀行口座を貸して欲しい」と一見もっともそうな提案。
銀行口座を教えると、「家族からあなたの口座に振り込みが完了した」とし、「振り込まれるのは数日後、だから先にその分を引き出して欲しい」と、一応は筋の通った理由を付けて、相手のクレジットカードのキャッシング機能などを使わせてお金をだまし取るというものだ。
もちろん相手の口座にお金が振り込まれることは永遠にない。
正確な被害総額は不明だが、庶民には莫大な額であることは確かで、その使い道は「賭博やショッピング」という極めて呑気なものだった。
それにしても、まんまと騙される日本人男性たちの情けなさと言ったら目を覆いたくなる。
いくら騙されやすくお人よしの日本人とはいえ、これほどの人々がひっかかったのだから、さぞかしそれは「迫真の演技」であるに違いない。
以下の体験談を読むと、もし今より経験と知識の浅い20代の自分がウタイ氏のターゲットにされていたら確実に騙されていただろうなと思ってしまう。
大変参考になるため「はぴらき合理化幻想」よりそのまま引用させていただくことにする。
この時ウタイ氏はタイ北部の古都チェンマイから更に北上した田舎町チェンライに現れている。
詐欺被害体験談
時間を聞かれて会話が始まった
晴れた日の午前11時30分にチェンライの街中を一人で歩いていたら、英語で声をかけられた。
- 今何時?
- え?
- 腕時計。今何時?
- 11時半だよ。
- ありがとう。…あなた日本人ですか。
時刻を明確に覚えているのは詐欺師に時間を聞かれたからだ。後から思えば、詐欺師は時間を知りたかったのではなく、詐欺のターゲットになり得るかを判断するために声をかけてきたのだ。
会話内容の要約
端的に記載するが、実際には筆者がいろいろ質問してそれに対して毎回きちんと返答されたというやりとりがあった。後日、様々な部分が虚偽だったと気づいたが、詐欺師が英語で言っていた内容を要約すると次のとおり。
状況説明
- 話しかけてきた女性はシンガポール人の医者。20代。
- チェンマイでトレッキング中に転落し、ケガのために病院で2週間治療した。
- その際にお金・カード・パスポートなどを含むほぼすべての荷物を盗まれた。
- 最近ようやく動けるようになり、チェンマイからチェンライへ知人の日本人を頼ってきた。
- しかし、チェンライに着いた日の早朝にその日本人はホテルをチェックアウトしていた。
- その日本人の行き先がわからずに途方にくれているところで筆者を見つけた。
- その日本人が書いたと思われる日本語によるその人の名前と住所などが書かれたメモを見せられた。
次にとりたい行動
- 警察に行くと不法滞在を疑われて面倒。お金もパスポートもないので。
- タイの南部までバスで移動し、そこからシンガポールに帰る。
- パスポートがないのでマレーシアを通れない。
- 飛行機ではなく船ならパスポートがなくても何とかなる。
- バス代・ホテル代・当面の生活費として20,000バーツを借りたい。
騙しの手口
- 本件とは関係のない「妹が日本留学詐欺」の手口を細かく解説し、タイ人には気をつけろとアドバイスしてきた。
- シンガポールの母親が筆者のクレジットカード宛に送金する。
- 銀行口座ではないので無理だと言ってももっともらしいことを言われた。
- 着金を確認してからお金を渡すというと、信用できないのは分かるので手元に唯一残っているという手持ちのルイ・ヴィトンのバッグを差し出してきた。本物か不明。
- 翌月に研修で日本に行くからその時にカバンを返してほしい。
- シンガポールの住所や電話番号をメモして渡してきた。
- 詐欺師の写真を撮ってもいいと言われた。
騙された理由
本当に怪我人だった
チェンマイでトレッキングしていて転落した証拠として、帽子を脱いで頭の傷を見せられた。髪の毛がフケまみれでまだ完治していない傷が見えた。本当の傷口にしか見えなかった。
表情に生気がなかった
頭の傷口という物的証拠に加えて、詐欺師の話し方、困り果てた様子、やつれた表情などで疑いの気持ちが小さくなっていった。
困っている人は助けてあげたいという甘さ
これがもし本当だったら可哀想だと思った。疑うよりも信じてあげるほうに片寄ってしまった。当時の筆者はまだお金にゆとりがあったためか、7万円程度なら戻らなくてもいいと思った。
こちらの提案は却下
お金を貸してあげると決めたが、その前に1,000バーツあげるのでとりあえず着金日まで待てないかと伝えた。詐欺師は、それならその1,000バーツはいらない、他の人に頼むと言ってきた。
詐欺師は筆者の甘さを見抜いていて1,000バーツではなく本命の金額を狙えると察したのだろう。筆者はその術中にはまり、20,000バーツを盗られてしまった。
お金を渡すとあっという間に姿をくらました
お金を渡す時は、詐欺師は目に涙を浮かべて体全体と態度で感謝を伝えてきた。お金さえ手に入れば筆者にはもう用はないので、一瞬にして筆者の前から立ち去った。逃げ足の早さもさすがだった。
手口の本筋は前述の通りだが、細かいストーリー設定や、表情、傷口の件など、良心的な人なら騙されてしまうのも頷ける。
2018年11月には、在タイ日本大使館から以下のような注意喚起もでていた。
ちょうど、ウタイ氏の5度目の釈放の時期と重なっている。
晴れて出所、塀の中で腕を鳴らしていたウタイ氏がバンコクの路上に帰って来て、再び詐欺を働き始めたため、日本人の被害者たちから大使館への報告が相次いだのだろう。
タイ(チェンマイ総領事館管轄区域を除く)にお住まいの皆様及び旅行者の皆様へ
在タイ日本国大使館数年前からバンコク都の至るところ,特にスクンビット通り沿い,シーロム地区,サートーン地区で,邦人の方が女性から声をかけられ,現金をだまし取られる事案が相次いで発生していますが,最近再びその件数が増えており,当館にも被害相談が数多く寄せられています。
具体的な手口の一例として,当該女性は自らのことを自称台湾人(このほか,香港人,シンガポール人,韓国人と称するときもあります)と言い,「リンジョー」,「ユージン」,「ウェイリン」などと名乗り,「パタヤからバンコクに移動するバスの車内で,旅券や財布など全財産を盗まれた。無一文であり,今夜泊まる予定のホテルにもチェックインできないので,お金を貸してほしい」などと言って近づき,現金をだまし取るものです。
被害者の多くは邦人男性で,かつ一人で行動している人が中心に狙われています。中には一人で百万バーツを超える被害を被った方もおり,これまでに当館が認知した累計の被害額は甚大なものとなっています。
在留邦人および旅行者の皆様におかれましては,昼夜を問わず,見知らぬ人物から声をかけられた際には決して油断することなく,一定の警戒心を持って対応されるよう,十分ご注意ください。特に,見知らぬ相手が金銭的支援を求めてくる等,不審な様子があれば,直ちにその場を立ち去るなどして,被害防止に努めてください。
「日本人男性は女性への金にだらしない」
困っている人を助けたいという心は美しものだが、簡単に人を信用し騙されてしまうのは大人として脆弱過ぎる。
そんな初心な日本人が詐欺師の恰好のターゲットになる。
ウタイ氏は逮捕の際、警察にこう語っていると言う。
「日本人男性は女性への金にだらしない」
そこに付け込んだ彼女の犯行である。
確かにその通りかもしれない。
夜のタイ人女性に貢がされ、ATM代わりにされ用無しとなればぽいと捨てられる日本人男性も後を絶たない。
しかし、私はウタイ氏に言いたい。
「お前、男だろ!」
いや、そういう問題ではなかった。
なぜ日本人男性ばかり狙うのか。警察の調べに対しこうも答えている。
「大学生の頃、日本人男性と旅行に行ったが、1人ホテルに残された。ホテル代もすべて払わされた。騙されたことで、日本人に恨みを持つようになった」(https://www.fnn.jp/posts/00420370HDK)
口から出まかせの可能性は否めないが、もし事実だとしてもやり過ぎだ。
詳しい法律は分からないが、タイの警察も彼女に甘いのでは?
タイの刑務所は過密状態だからすぐに釈放される、と言う話も聞く。
兎にも角にも、これ以上被害者を出さないために、という思いで私はこの記事を書いている。
日本人男性の端くれとして「もうウタイ氏に騙されるのいい加減止めにしない?」と強く訴えたい。
次の出所は数カ月年後か数年後か、散財が終わった頃にきっとまた日本人男性を騙しにスクンビットの路上に戻って来るに違いない。
その時までにこの記事が少しでも多くの日本人の目に触れることを切に願っている。
ウタイ氏にとって日本人男性は「アローイなカモ」。photo by Dorami Chan
参考サイト
http://www.newsclip.be/article/2019/02/04/38870.html
https://www.fnn.jp/posts/00420370HDK